天女 第55回連載
「どうしたの。」
一向に何も話さない私に対して、天女は些か訝しさを覚えたのかもしれない。
「つい思いを巡らしてしまって。」
私は感慨を滲ませてしおらしく振舞った。もちろん、それは単なる装いに過ぎない。これも適当にあしらうことがためらわれた為で、やはり天女を無下にできない、そういった想いも醸成される間柄になっていたのだと感じた。つまりは、いわば連帯感といえるものがそこにあったのではないか、そういう思いがして来たのだった。それは天女のもつ翳り、或いは屈折から来ていたのだろうと思いつつ、私のそれとどことなく同様と思える間柄にあるのではと考えた。だが、そう云いつつも、まだ、自身の情にまつわる事を述べるにつき、わだかまりを覚える次第だった。
「正直、御令室の私への対応が、まったくの手管であると思えないんだ。」
「それは何?」
あどけない目だった。こんな物言いに、天女は微笑みながらそう述べるのだった。だが、不思議なもので、こういう好奇な目でみられるからこそ、その期待を大きく裏切りたいとの衝動にも駆られるのだった。もっとも、単に艶やかな趣きを控えようとするていにするぐらいだった。
「全く令室の媚態には悩まされています。」
ただ、媚態という言葉を使ったからには、その具象性に言及を施さなければならないのが筋であろう。私はそういった物言いをしたことに若干、顧みる点もあったが、言葉の行き詰まりが目に見えるようで、でも一方で、装いにしかならない修辞を選ぼうともしていた。やはり、天女の期待を裏切ってみたいという想いがあったからだ。
これといった様子を示すことなく、天女は、水面に写る自身の姿に見入っていた。ただ、彼女の心向きには関心を持った。然程のものでもないのかもしれない。その興味が、そう、私と令室との情のあり様について。
「やはり、やめておきましょう。この手の話は。」
「少し気になる処も。」
私の述べように、天女はこう応えた。




