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天女  作者: 南清璽
54/112

天女 第54回連載

「あんたから誘ったの?」

「まさか!」

 天女の、その問いに対し、私は少し、はぐらかした物言いをした。もちろん事の次第は令室からの誘いであった。だが、その誘いが如何にあったかなんてとても話せなかった。むしろ、令室との秘事とすべきでは無いか、そんな想いを抱いていた。そういった情の話をすること自体、はばかれるものがあったのは、幾分かの、気恥ずかしさからだった。それに、何分、冷めた一面でご令室に接していたのは明らかで、ただ求めに応じただけの、感慨としか云えないものであり、令室を単なるマテリアルとして感じるだけのことだった。

「そういった秘事は話したくないものですよ。」

「いいじゃないさ。あたいは遊び女なんだから。」

 天女には理知的なところがあると感じていた。それ故に、このように、情のことに興味を持つのが意外だった。いや女性という性である限り、こういうことに興味が尽きないのかもしれない。もちろん、いささか差し障りのない範囲で披露することは、可能だったが、いざ試みようとすると、いろいろと逡巡するものだと考えた。

 一つには令室が、性欲以外のことで私のことを欲したかどうかだった。もし、二元的な考察を試みるとしたら、それはまさしく、令室が、私に求めたものが、性的なものであるか否か、その二点だった。一方で、私であるか私で無いか、令室のその点の想いも、気になる処だった。だが、少なからず、身勝手なものだ、という考えも起こっていた。そう、令室を単なるマテリアルとしてしか捉えられないのに。でも、考えを重ねていくうちに、作為的にマテリアルとしか考えようとしない面も否定できないことに気づくのだった。

 更に想いが及ぶ。情に至ってからとまだ至らないときとの差。それが不思議にも思えた。誘われたとき、正直その媚態より、むしろ、性差というものを感じていた。そこには一つの、ものの哀れが存在していると思う次第となったのだ。だがいざ交わりを持ってしまうと不思議というぐらい、令室は物質化していった。その折、令室を慕う気持ちがあったとは思えない。むしろ、女性という性の持つ、性的な意味合いでの悲哀を感じ取っていたぐらいだ。やんごとなき境涯でいらしたのに、それが一つの婚姻で変容を遂げてしまうのだ。それに対して、仰々しく哀れを感じる次第となったのだ。



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