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天女  作者: 南清璽
53/112

天女 第53回連載

「然程でもありませんよ。」

 だが、どれほどこれに確信があるといえるのか。第一、令室が天女に対し何も嫉妬しないなど言い切れるものではなかった。ただ、若干にせよ想ったのが、そういった感情を抱いたとしても、一切外観には出さずによそよそしく振舞うだけだろうということだった。そこにあるのは令室の意地といえるもので、つまりは、知性の持主であることを演じるということだった。そう思うと、令室は、天女を遠ざけ、冷淡なそぶりを見せるだけかもしれない。ただ、天女が、それを単に知性を振舞っているだけに過ぎないと見透かせられるか、予想がつかなかった。

 こうして、この三人に思いを寄せると、ふと三角関係という言葉が思い浮かんだ。それはドストエフスキーの小説にある様なものだ。天女と令室と私との間柄がそう思えたのだ。その小説では、例えば主人公の血族は父親と3人の兄弟であった。だが父親は次兄を遠ざけ、長兄と主人公、そして、父親の三角関係を築いていた。その三兄弟でも三角関係ができていた。あるいは父親殺しに関与した長兄は、一人の女性をめぐって父親と三角関係に、あるいはその女性ともう一人の別の女性と三角関係になっていた。

 そうして、気づくのだった。令室及び天女との、あるいは今や御曹司の御新造となった、かの方と天女との間でいつの間にか三角関係ができ、現に私はお館様とは、令室あるいは天女との三角関係にあるといえる。そういえば天女もかのご新造と御曹司をめぐって三角関係にあることも。

 一方それが三角関係ともいえるものか。もちろん、そう思うのも無理はないという一面はある。だが、令室、天女、そしてご新造に何一つ耽溺できる情は一切なかった。やはり恋愛という感情とは異なるものであった。それだけはそう述べることができた。一方でこの好意ともいえるものが、言い換えれば恋愛感情というものではない、という意味で一つの緩衝材となりこの三人の女性とうまく均衡が保てたのかもしれない。更に付言するなら、一つの功として、私自身が疎外されずに済んだということだろうか。そう、寄り添えるものを何も持たなければ、それで誰からも干渉されずに済むという、そういう感であった。


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