天女 第52回連載
「今もその人のことが好きなの?」
天女のその問いに私はいささか気恥ずかしさを覚えてしまった。もっともそれは実態として誤っていることには間違いなく、その点を明確にしなければならないと思った。ただ、そのことが、つまりは結婚前のご令嬢の出奔を手引きしようとしたことが、単なる親切心あるいは思惑のない献身であったと言い切れるものでもなかったのは確かだ。
「正直恋愛感情を持っていませんでした。もちろん、女性としての素晴らしさは感じていましたが、身分の隔たりはどうにもなりませんよ。」
これは一種の取り繕いであった。
「そこまでしたら、そのお嬢様から好意を持たれたのではないの?」
「そんなことはありえませんよ、私はそう思っています。」
見れば薄笑みを浮かべていた。私の物言いかあまりにも強調したものだったからだ。天女が、そのような薄笑みでその感情を示すのは当然だと思えた。ただ、一見すれば図星であった。でも一方でそれが自身の深層の心理としてどうだったか、私は測りかねていた。
そうしつつも、こうして二人で話しているのを、運転手以外の者にも見られないか、心配だった。ただ冷室は、何処かに出かけた様で今この館にはいない。
「不覚だったかもしれません。こんな風に二人が話してるの誰かに見られたりもしたら、君が言葉を話せないのが狂言であることがばれてしまいます。」
「構わないさ。」そう言いつつ天女は私に顔を向けた。「それが知れた処であたいは何も咎められはしないさ。」
ふとその心がなんだろうか、知りたくなった。そうして私は天女に向かってその顔をまじまじと向けていたのだった。天女はそれを察し、
「狂言だと気づいているかもしれないよ。御令室は。この館で私のことを知ってるのは、お館様と御令室ぐらいだからね。それにあなたと。そう、運転手も。知られたとしてもお館様から言われてしていることは、察しが付いているのじゃないかしら。むしろ、こんなところを見られて、あなたのことで御令室に嫉妬される方がずっと怖いぐらいだ。」




