天女 第48回連載
「毎度ありがとうございます。」
威勢のいい声だった。まだ年の頃としては、青年とも言うべきで、そのさわやかな様子にいたく感心したのだった。これは先日、ガソリンの配達を頼んだからだ。
「その辺に適当においてくれんかな。」
私は受け取りの伝票にサインをした、そうして、
「彼方此方と兼任しているから、此処では、留守が多い。だから掛けでなく現金で支払うよ。お釣りは取っといてくださいな。」
わずかなお釣りに過ぎないが、その青年は喜ぶのであった。
「いやすまない。何かとガソリンが入用でね。さっき述べたとおりで、先に屋敷に戻ってほしいということじゃ。」
私は運転手にこう告げた。
「承知しました。」
運転手はそうして自動車を発進させた。やがて自動車の影が消える。私は急ぎ、残りの作業に取り掛かる事にした。まずは運ばれた一斗缶に詰められたガソリンを庭の倉庫へと運ぶ。そうしてそこからスコップを出し焼却炉の前に穴を掘る。そうしつつ、未だ明確に今回の謀りごとの動機を見出せないことを感じていた。憎しみでも恨みでもない。単なる曖昧さだけがあった。ある意味虚無感とも言えるものを見出す反面、人の死への憐憫を感じないわけがないと省みてもした。だが、自ら手を下した死に対し、悼みを感じ、さもありなんと思えるところに、いささか頓狂であると感じる次第となっていた。
私は額の汗を拭いながらスコップで土を掘り起こしていた。ほどほどのところで置いておこうか、そう思う反面、まだその思考において、自分なりに結論が得られてないという思いがするものだから、むやみにスコップで穴を掘り続けるという次第となっていた。まだ充分ではない、そう思えるのだった。お館様は私の目の前で天女と交わる、それが如何に天女という女性の尊厳を辱めるものだったとしても、まだその動機としては不十分であると思われた。なお、そういった思いが逡巡するのであったが、一方でスコップで土を掘るという単純作業をする上では、それが無為にならないという意味ではうってつけのものだった。




