天女 第46回連載
「因果なものだね。」
私はそう云うほかはない、そんな思いからこの言葉を発したのだ。この言葉に込められたものというものは、その御曹司が私とかかわりある二人の女性に、一人は懸想人であり、一人は結婚相手だということだった。そうしてつくづくわが身が不遇であると思う次第になっていた。自身に嘲りを感じその微賤さを、いやというほど身に沁む処となった。
一方で、御曹司へは、考え様では嫉妬といべきものを覚えていた。そうして、その御仁が長身の色白の美男子だと自分勝手に空想してしまった。それが元来の卑屈さからのものであることは分っていたが、こういった妄想をやめることはどうしてもできなかった。むしろ、そうであって欲しい、と願っているのではと考えた。そう願うのも、嫉妬にかられる方が、むやみなこじつけをしなくて済むと思えたからだ。
「御令嬢はは嫁ぎ先では、不自由のない生活を送っているのだろうか。」
私は、意味なくこう云うことを訊ねてしまった。これに対してKは、
「伯爵からはそうと聞いている。」
と答えた。
「君はその縁談に一役買っているのかね。」
「まあ否定はしない。もっとも俺は何もしてないと等しいが。考えてもみろ、あの、御令嬢との出奔の一件で、お前に八ヶ岳の家を提供しようとしたのは、それほどの関わりがないということだ。」
私はKのいいようがもっともだと思う反面、あの時私の協力の申し出を受けたのは、御令嬢に対する一つのあわれみであったのではと思え、ふと、その所以がそうであるかを知りたくなった。
「君も御令嬢に対し何がしかの同情を覚えたのかな。あの出奔の話に君はいとも容易く八ヶ岳の別荘を提供してくれると言ったが、やはり御令嬢への同情だったんじゃないかと。」
「お前もそう思っているだろうが、当世の婦人にしては、立派な考えを持ってると思ったよ。恋愛をしてみたい、あるいは、師範学校に行って教師になりたい、と云うのには。俺は御婦人が職を持つことを否定する気はない。」
Kにそのような一面があったとは。
「君も『女性は原始、太陽であった』そういった口かね。」
「お前ほどではないにしろ、女性崇拝者であることは自認しているよ。」
Kは、当分の間あの閉鎖された診療所に訪れないと言っていた。となれば、この一週間もしくは十日ほどの間に実行しなければと思った。




