天女 第45回連載
「確かに。お前のいうとおりだ。誇りというものは大事なものだよ。それにしても、その天女という女に惚れてでもいるのか。」
「まさか。もちろん女性として関心はある。だがそれが好意と言えるものかどうか私には分かっていない。」
思わぬ所へ話がいったものだと思った。そもそもKという男は、こんな色恋沙汰に関心を抱く人間と思っていなかった。常常恋愛なんて馬鹿らしい、そんな風に思っているのじゃないかと考えていた。
「それに懸想していた人がいたとも聞いてた。そこの廓に通ってた人らしいがね。なにやらどっかの成金の御曹司だったようだ。」
正直、天女が懸想をしていた人が気になっていた。ひょっとしたらKなら何がしかのことを知っているんじゃないか、そんな思いからこのことを話してみたのだった。それにKならきっとこの話をこの場限りものだと察してくれるそんな想いもあった。
「その懸想していた人間がどうやら気になるようだな。」
私はKのこの言葉にたじろぎもせず、平静を装い、
「否定はしない。」とだけ述べた。
「その御仁はお前と因縁浅からぬ人間と結婚しているよ。」
まさか。そうして我が身の微賎なることに思いが及んだ。そんな卑屈さに嫌悪していることは悟っているのだが。Kの言葉対して思い浮かぶのは伯爵家のご令嬢だけだった。
「どうして君がご令嬢の嫁いだ先だということを知っているんのだ。」
「伯爵に頼まれた。その御曹司とやらがとある廓に通っているという情報をどこからか得たようで。俺にその相手を知りたいと。女郎屋の主人から教わったよ。その相手が天女だということをね。そうして、天女が、梅毒に冒されているという算段を思いついた訳だ。」
「君がお館様の処へその身請け話を持っていたのかね。」
「然様。」
「さすがに君でも身請けのお金を工面できなかったわけだ。」
「御意。」
Kはやけに単調な返事ばかりを繰り返した。




