天女 第43回連載
『またその話か。』
心裡おいてこうつぶやいていた。またしても、私なら帝国大学の医学部か、たとえそれが無理だとしてもどこかの医専ぐらいは行けたであろうとKは言うのであった。それに対しては、辟易とするばかりだった。
「正直、傍目ほど医者の仕事は良いものでもない。何分、人の不幸を生業にする。それに、私に、父のように患者の心をうまく掴めると思えない。父も父で、私がどの道、医学に進んでも医師としては大成しないということぐらいは分かっていたはずだ。」
あまり仕事のことを家族に述べない父でもあったが、私に説教するおりは、医師として患者に接する心構えを述べて、それをたとえにしてほどこすのであった。懇切丁寧に患者の話を聞き、反面、仕事の愚痴を家族にはこぼさなかった。
「だが、お前の親父さんは、正直芸術家肌であることに危惧を抱いていたよ。」
確かにKの述べた様な思いを父は持っていた。それに的を射ている。いまだに音楽を生業とできていないばかりか、食客の身に甘んじているのが証左だ。
「父が医者にならなくても何か堅い仕事について欲しいと思っていたのは事実だ。そうしなかったのは父の反発ではなく一種の虚無であったことは間違いない。報われないとしながらそれに身を捧げる。どうだね?」
「俺にはそれは虚無というよりロマンだ。ただ言えていると思うのが、虚しくある夢だと言えることだ。そう冷たく言い放つこともできるそんな類いのものだ。」
「なかなか手厳しいじゃないか。」
Kの口元は弛んでいたが、眼鏡の奥にある眼は虚ろなものであった。そんなKに不気味さを覚えていた。Kはおおよそ情に流されること軽蔑するたちであった。
「君はあの精神科医に対しても、私同様に蔑んでいるのか。」
「お前にしろ、あの精神科医にしろ俺は蔑んだりしない。」
「精神を病んでいたことについてもか。」
「そうだ。」




