天女 第42回連載
私は狼狽を覚えた。と同時に何か取り繕う必要があるものと感じた。とは言え何をどう取り繕うかすぐには思い浮かばなかった。
「いや、何分あの建物はなかなか瀟洒なものだからね。取り壊すとなると忍びなさを感じてしまう。たしか外国人にその設計を依頼したと聞いたことがあるが。」
私はそうKに聞いてみた。そうすれば、またいつものようにKが色んな逸話を面白く語るのではと考えた。外国人に設計をしたいきさつを全く知らないわけではないが、Kにそれを述べさせるのも一興なものであることは違いなかった。
「よく知っているな。そうだよ。もちろん取り壊しはしない。ただ、人気のある設計士だっただけに、なかなかすぐには引き受けもらえなかった。幸い、ご内室の女学校の同級生の一人と知己があったもので、そのつてを使って、話をすることができた。お館様も、それ相応の報酬を弾むということで、なんとか話がついたわけだ。だから俺としても、そういった事情もあることから、あそこをサナトリウムとして利用してもらえる御仁を探している。」
「いやそうだろうな。ところで次も精神科か。」
「精神科の外は、労咳の患者を専門に診る、そういったサナトリウムにするか、思案しているよ。」
「それにしても君は相変わらず有用だな。私の父の時は相当苦労をかけたから。」
「お前の親父さんの時とはかってが違うよ。包丁を畳に突き刺す様な連中を相手にするわけじゃないからな。」
「それは父から聴いているよ。そういった連中だっただけに、その苦労を察するよ。親父は本当、君から助けられたと思ってるはずだ。君がそういった連中と渡り合えるから、医師からも頼りにされるだろうな。」
「もっともうまみのある話だよ。依頼主が医師なら、ある意味硬い商売相手だと言える。報酬はたんと貰えるからな。」
「割が合うと言えば割が合うだろうな。奉仕に見合う報酬がもらえるのであれば、それに越したことはない。全く君の言う通りだ。」




