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天女  作者: 南清璽
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天女 第39回連載

「やけに引っかかっているじゃないか。『例の』という物言いに。さほどに訝しがるものでもないはずだ。」

「悪いけどその『例の』には、引っかかるものがある。第一、あの産婦人科医について、俺たちにどれほどの了解があるというのだ。」

 確かにそうであろう。そんなKの言い様を否定しきれないものがある。

「独立不羈だよ。」

「独立不羈?」

「あの産婦人科医は、そう言ったよ。自身のことを。でも、考えてみろよ、君にしろ、私にしろ、その点は、多いに当てはまる処だ。いわば同じ匂いを醸す者同士だと。」

 私は、Kにこう水を向けてみた。だが、当のKは、相変わらず不敵に、笑みこそ浮かべていなかったが、その自身の目であの産婦人科医の「独立不羈」の物言いが、ある種の取り繕いであると、語っていた。

「あいつは、臨床医としても優秀だが、ある研究をしていた。それが元で研究室を去らなければならなくなった。」

「ある研究?」

「そうだ。ある研究だ。」

 もったいつけた様なKの言い回しには、辟易とした。だが、それを不満とする様な表情を見せようものなら、きっと、それをおもしろがって、余計に焦らすことは眼に見えて分かっていた。

「興味が持てることだ。」

 と私は、ただ、単にこう述べた。だが、一方でその産婦人科医がしていた研究というものが、私にわかるものかどうか、単にそれが自己の蒙昧さを醸すだけの結果に終わらないか、そんな思いがした。

「ただ、聞いたところで私に理解できるものなのか。」         Kは、私のいつものこんな言い様を卑屈だと蔑むのであろうか。時折、父は医療の合間に私に医学のことを話した。それは私に医学について何がしかの興味を抱いてもらいたいという想いからだった。だが私は父とは距離を置いたためそう興味を持てないという程を施した。私が医療についてそう興味を持てなくなった所以に、そんな父の話が純然たる医療に関するものであったことが少なからず影響しているものと思えた。もっとも父が哲学的な要素を殊に科学の神秘として医療のことを話していたら、私はまた違った興味を持ったのではと思っている。

「大丈夫だよ。お前は哲学に詳しいからな。」

 Kは、そう述べた。


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