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天女  作者: 南清璽
36/112

天女 第36回連載(再度Kと)

「例のピアノ線だ。」

 Kはそういって紙袋を座卓の上に置いた。通された部屋には見事な桜材の座卓が設られていた。そうして、例の如く威厳を誇る様に背筋を伸ばして座椅子に座っていた。ただ、気になったのは、その座卓が、以前とは違い少し小ぶりになった様に思えたことだった。だが、実際にそうであるのかKに対して尋ねてみようとは思わなかった。それというのも、自身の記憶が曖昧であるため、尋ねたばかりに、むしろ、自分の注意の足りなさをKから蔑まれはしないかという懸念が生じたからだ。

「まさか、これで人の首を絞めようとしているんじゃないだろうな。」

「全く笑えないね。御令室にピアノ線が如何なるものかお見せしようとしただけだ。」

 Kの言葉に対し、そう取り繕った。やはり、警戒を怠ってはいけない。Kはわずかな仕草、言葉じりで、異様な向きを察知するのかもしれない。

「それにしても君のそういった笑えない冗談や皮肉に対して、どう返せばいいか思案するよ。」

 Kは、私のそんな言葉に対し、それは大仰な物言いだという様なそぶりを示しつつも、その落ち着いた風から、私に何か魂胆があるのやもしれぬという想いが潜在しているのだろうと考えた。きっとこれ以上繕うと更に怪しむのではと察した。いや、それどころか、私に対し、何かが潜んではしないか、探ろうとするのではないか、そんな考えも浮かぶのだった。

「お前とこうやってクラシック音楽について語らうのも、嗜みとして、知識を養うためだ。」

 Kは、僅かな沈黙も嫌う様で、少し話題を替えたのも、それが理由だと思えた。

「嗜みか。正直、君のいう処の知識を養わせるものを話せる自信はないよ。」

「その心とは。」

「やけに気取った物言いじゃないか。」

 Kは私のこの言葉に苦笑した。もちろん、それは照れ隠しであったが、何処か瀟洒な向きがあり、一見、そう見て取れるものではなかった。だが、一方でどう言葉を選べばいいか思案してもいた。何分、Kには見識のある処を示したかったからだ。それは、Kという人間に完全にイニシアチブを取られない方策でもあったのだ。


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