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天女  作者: 南清璽
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天女 第34回連載

 ここの診療所は、平家建だった。いうなれば、サナトリウムにしては、やや、こじんまりとした趣きにあった。しかも、外壁が下見板張りで、白の塗装が施されていたからか、気品を感じつつも、愛着も感じさせる風合いも備えていた。やはり、収容できる人員数からして、療養施設としては、その採算が取れるものでもなかったのではと推察を及ぼした。私は、その看護婦と黙礼を交わし、そこを立ち去るそぶりをした。こうして、頃合いを見計る魂胆だった。ある思惑があったからだ。それは、看護婦も去ったであろうと思う時間に、その場に戻って見るという。何分、寂蒔とした場所。だから、看護婦の立ち去ったあとは、人の目など気にする必要はなかった。

 まずは、勝手口がどこか探してみた。だが、回廊に出るガラス扉を見つけられたので、看護婦から預かった鍵の中でそのものと思えるものを試した。回廊には、白色のペンキが塗られた、テーブルと椅子が置かれている。私は、そこからの芝の眺めに想いが至ったが、それがどういう風なのか、試しに座ることはなかった。やはり、そんなところではなかったからだ。

 その扉を解錠し、そこからこの診療所へ侵入した。そうして、診察室、あるいは、待合室などを順次見、今でも診療を行える手合いだということを確認した。それというのも、診察室の机には、聴診器、打鍵器が几帳面な程で置かれていたからだ。そしてハンガーに白衣と。やはり父の診察室は、ここに比べて、雑然としていた。この段になってそう思えてきたのだった。ここでは、さっきの産婦人科医の診察室の様に、父とのことで何かを感じることはなかった。こんな風に整然としてあれば尚更だ。

 常々父に対して懐いていたのは、父の存在が一つの壁であるということで、それに向き合うことができなかった。それはある種の怠惰でもあったと今では思っている。しかし、結果的にそれはそれで良かったのかもしれない。父は診療や患者のことで常に頭が一杯であったから、私や家族をかまうことはなかった。ただ、私がひとかどでも父を慮る気持ちがあれば、家族への接し方は違っていたかもしれない。




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