天女 第33回連載(診療所)
看護婦は、丁度、張り紙を貼ろうとしていた。しばらく休診するという内容だった。
「おはようございます。」
私を認めたその看護婦は、訝しげに、全くの儀礼に過ぎないとの程で挨拶をした。
「おはようございます。あそこの産婦人科では、廃業にすると伺いましたが。」
「そうなるはずだったんですが、ここを引継ぐ医師を見つけてくれるという方がいまして。」
それが、すぐに K だと分かった。だが、この段になってもその男をその名で呼べないのが、頓狂に思われた。
「カシ何とかという男ではなかったでしょうか。」
「その様なお名前でした。ところで、そちら様は?」
ますます訝しい、この看護婦はそんな向きになっていた。
「私ですか。この上の屋敷の使用人です。」
看護婦は、一応の合点がいったと風な様子だった。そうして、
「今からそちらのお屋敷に立ち寄って、ここの鍵一式をお渡しするところです。」
「丁度いいではないですか。私がお預かりして執事に渡しておきましょう。」
「そうしていただけるのならお願い申し上げます。」
私は、この幾つかある鍵の重みを感じた。やはり、この人里離れた寂しい場所で営んでいるというのに、厳重すぎる鍵の数だった。
「こちらのお医者さんですが、出奔したと伺いました。あの産婦人科医からですが。心を病んでいらしたとか。」
何でも情動が不安定となり、置き手紙一つ残し、そうしたのだと。その手紙に残した文面も意味不明なものであったことも聴いたと。
この一連のことに対し、一応ともいえる、ねぎらいの言葉を述べた。もちろん、それは初めて会った人へのそれ相応のという具合で、世間体を取り繕うのに過ぎないものでもあった。一方で、意識下にあるものを悟られまいとしつつ、当為ともいえる、仰々しい物言いをするのをためらいもしていた。そうありつつも、僅かな関心を示すことも怠らなかった。それというのも、K の算段では、いつ頃の再開を見込んでいるかを知りたかったからだ。もっともその看護婦によれば、目途がたたないとのことだった。
やはり、K に直接確かめる他はないようだ。




