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天女  作者: 南清璽
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天女 第3回連載

 しかし,そういう具合に情夫に甘んじるというのは,諦観ともいえる節があり、これに抗おうとしないことに,馬鹿げているとはいえ,自身が芸術家の端くれであるという,誇りが、いい意味で作用していた。というか,令室自身を蔑むことで、幾分かやわらいだというのが適切であった。確かに,まだ,音楽家としての自負は失っていなかった。如何に,彼女が,富豪の令室であろうとも、殊、音楽に関しては、身分の隔たりなど感じられなかった。私は,了知していた。彼女の夫の,多くの資産が,つまりは,その多くの土地が,借金の形に取り上げたものであることを。夫は,いわゆる高利貸しであり,成金とも,守銭奴ともいいえる領分の人間であったことも。そういう彼女も,元は良家の令嬢であった。やんごとなき生い立ち故,嫁いだ先の実情を知り,憤りが生じたのは想像に難くない。しかも、私への一連の、そうあの執拗ともいえる折檻が,その腹いせに過ぎないものであることも。私に向けられる怒りというものは。いうなれば,葛藤がうまく自己において完結できない故に生じるもので,だからこんな具合に憐れみを感じてやればいいのだと。

 そう考えつつも,まだ,言葉足らずの実体に気づいていた。つまりは,諦観と捉えることについてであるが,実は,この家の食客の身であった。もちろんこうなったのも故あってのもので,有体にいえば自分の醜聞に起因したものだった。だが,そこに想いが至ってしまうと感傷めいた佇まいが醸し出されるばかりに,どことなく,心の隙を見せる呈となる。だから、努めてそうならないようにしていたのも事実だ。それよりか,令室に,見透かされていたことに,顧みて,そう,今宵の自身の演奏に慢心が存したことに思いが及んでいた。


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