天女 第27回連載 (産婦人科)
診療所の勝手口。やはり、産婦人科ならば、玄関よりお邪魔するのは控えるべきなのだろう。
「すみません。急患です!」
声をかけてみた。そうして、奥の物音で少々気が止んだ。何分、数度は試さなければならなと踏んでいたからだ。
「頭を切ってしまいました。縫ってもらいたいのですが。」
私は、身体を屈めて、頭の傷口を見せた。いつもこんな具合に用件のみを述べた。だが、それは特段の理由があってのことではなく、挨拶として時候に触れるのが得意でなかったからだ。
「縫合の必要はある様ですな。診療までまだ時間があるからどうぞ表へ回ってください。」
ご婦人の居並ぶ産婦人科の待合室に、男がいるのも珍奇なものである。だが、まだ診察時間でなければ、勝手として表から診察室に入ることは許されるものだった。
医師は、簡素な麻酔の後、縫い合わせてくれた。
「少ししみるが我慢してくださいね。」
医師は縫合した箇所に消毒を施した。
「あんたのおっしゃるとおり骨には異常ない様ですな。それにしてもお館様は随分なことをなされる。」
「かまわないのです。あの手の御仁には何も通じませんから。」
気がかりだったのは、医師から警察に通報されないか、だった。ただ、その様子からしてそんな考えはない様だ。もちろん、それを不条理に思う訳ではなかった。だが、医師は、私の心裡にある、やるせ無い想いを受けて幾分かは察した様だ。
「警察にいったばかりに、君があの館を出る羽目になっても辛いことだろうし。」
「全くもって。でも、警察への通報はお控えくだされば幸いです。」
「そうですよね。私も今では、安っぽい正義に囚われないようにしようと思っています。」
この産婦人科医が、お館様から援助を受けたことはKより聴いていた。ただ、詳細といえるものは何も知らない。もちろん、複雑な事情が存することは察せられた。だが、ここは自身もKと知己があることは秘することにした。どうせ、訝しがられるだけだと分かっていたからだ。




