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天女  作者: 南清璽
24/112

天女 第24回連載

「だからでしょうか。惚れたんです。決して、人を恋しく想うなんて許される身でないと分かっていましたが。ほんと、遊女ではなく、一人の女として見てくれたんですから。」

 意外だった。そのしおらしさ。天女の語り口にそれを感じられたのだ。そうしてある訝しさがつきまといした。天女の声の深みだった。もちろん、作為ではないが、なぜか素直に感覚として受容出来なかった。

 ただ、その相手の男性に対する私の人物像の予想は見事に外れていた。狷介ゆえの孤高、そして、何処か病んだ節のある、文人あるいは画家といった男性ではないかと思っていたからだ。

 その相手とは俗にいう成金の子息だった。だが、天女の話の端々から御曹司ともいうべき風合いの持ち主だったとも覚えた。

「一夜を無為に過ごすときに本を読んだりしてくれました。アドベンチャーオブシャーロックホームズ、とても面白いんです。」

「そら面白いでしょう。」

 その本は読んだことがあった。探偵小説であったが、本筋の謎解きより、むしろ、人間の背徳や業に興味を持ったものだった。こんなふうに原書を読んで聞かせられるのも、帝大を卒業したインテリゆえの所業というところなんだろうが。もちろん、自分にもそれぐらいの芸当はやって見せられる自信はあった。だというのに天女が屈託なく語る姿から、妬みを覚えたため、つい、「そら面白いでしょう。」という具合に素気なく言ってしまったのだった。

 そういった妬みとと共にその御仁の優しさに想いが及んだ。私は、それを一つの優しさと見てとったのだ。遊女といながら、情も交わさず無為に過ごすことを。そうして、お館様との差異、つまりは、天女との情交の在り方とをその男性と比べてしまっていた。人前でそれを行うとは、同時にそれは屈辱を天女にもたらすものに違いない。だが、同情という向きでそれに触れるのは、少々躊躇われた。それも、天女に遊女であったという意識が強かったとことに想いが及んだからだ。そして、それは、幾分かの自虐でもあった。

「これが初めてというわけではないのでしょう?」

「えっ?」


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