天女 第23回連載
「こう見えても、恋仲に陥った人がいたんです。」
私にとって何より聞きたくない話だった。この天女に恋をしているものでないというのに。むしろ、どうして女郎に身をやつしたかを知りたいぐらいだった。これから話そうとすることには、それなりの悲恋があったのだろうが、私はそれを聴いて彼女に同情に傾くか疑問だった。いや、むしろ懸念といえた。もちろん、嫉妬などはありもしないが、たとえ作為にしても、天女の身の上に対する同情、あるいは不条理な事柄に対する憤りを世間並みに表せられるか不安だった。
私は、ある空想に浸っていた。その天女と恋仲になった男性の境涯についてだ。私は何の根拠もなく、自分と同じ芸術家で、未だ不遇にある存在ではないかと思ってしまった。そうして、天女は、訥々と顛末を語り出すのだが、そのしんみりとした感が、あの独特な雰囲気に適合した。そう、翳りという。天女自身、整った顔立ちをしていたが、どちらかというと、美貌よりその翳りに惹かれた。
「何もせず夜通し話して過ごすことだって…」
私は、その話を天女から聴き、ふと令室との間柄に想いが及んだ。何がといえば、天女とその男性の様に高潔な面を醸すことが全くなかったからだ。私は、ただ、令室の求めに応じ、その欲求の対象になっているに過ぎないのだ。もちろん、そうするのも、令室の機嫌を損なわないためで、いわば、令室を性愛というより物資として見てしまった結果でもあった。畢竟、その男性と天女の間に羨みとも妬みともいえない感情が生まれていた。だが、そこに潜むたわいもなさが、どうしても馴染めず、そういった事柄に対する反射的な意味で、蔑んでいたのも事実だった。




