天女 第22回連載
「病気で話せないのかと。」
「狂言よ。」
天女は、そう告げた。でも、それが狂言であったとは正直、思いたくなかった。何分、話さない事自体、彼女への同情の誘いであったからだ。むしろ、憐れみが失せないか気がかりだった。何分、そこに彼女に惹かれる一面があったからだ。
他方、その答え方は相変わらず素っ気ないままだった。あくまでも同情を拒もうということなんだろうが。一方、,そうと察してしまうと、今度は、そこまでこの私と距離を取ろうとするその所以如何にという次第となった。もちろん、私に対し、おもんばかった気持ちからそうなったのであるものの、単に愚直だとも思え、その無粋さが、彼女一流の、でも、手管とは言い切れないほどで、かえって感傷を覚えさせた。もちろん、意地らしいのだが、そうともいえない大人らしい感じがした。そう、女という面を見せないという。
私は、サイドテーブルにあった水差しからコップへと水を移し替えていた。何か行き詰まるとこの様な意味のない所作をとった。天女は私と同じく食客には違いないが、半ば執事として労働を課せられる我が身とは違っていた。だから、こんな具合に、お館様の身の回りだけでなく、この女性に対しても時折世話を施していた。
もっともそういった折に、私は令室に見せるあの屈折した感情を顕にすることはなく、むしろ、天女には私なりの柔和な表情を向けていた。もちろん、それは愛想といわれる向きのものであって、一つの社交であり、見返り求めない、純粋な意味で奉仕ともいうべき性質の事柄だった。特段の由もなく、お館様と情を交わす間柄だけという事情を慮ってのことで、それ故の、忠誠心ともつかない、何か課せられたものだという意識と、いわば憧憬ともとれる感情で、自然に発露したという感じもしていた。
「どうして打ち明けようと?」
「人が良さそうなので。」
ただ、その言には、辟易とした。私には、令嬢との、あの出奔の一件と同じ様に思え、好意的に捉えようにもそうできなかった。令嬢が、自分に頼ろうとした所以を述べたときと同じ言葉だったからだ。




