天女 第21回連載(天女と)
「待って下さる?」
その声には幾分か重みがあった。でも、これは聞こえがいい様に言ったまでで、もう年増にかかろうとしている年頃だったから、生娘の様な声は持っていなかった。だが、その声の深みには、何某かの知性を帯びていた。正直なところ幾分かの下賤さを感じていたのだが、それは傾城であったとからで、その一事をもってそう考えた浅はかさを恥じた。ただ、こうやって恥いるのも彼女への興味の裏返しなのかもしれない。私は、こんな具合に、なんの根拠もなく、高等女学校ぐらいは卒業しているのではと思う次第になった。
もう出血も幾分か収まった。このお屋敷からそう遠くない医師のもとに診察を受けに行くことにした。そこは結構深夜でも、急患には、応じてくれる処だった。だから、今すぐにそこに赴くのは、彼女とて何らのためらいのないはずだった。
だが、その声の主である天女の方へ目配せをし、自分も何某かの応答を行うむきであることを了知さた。寝台に座している彼女の様子からして、私の意図を解したものと承知できた。つまりは、私に対して何かを言おうとしていたことを。何よりその視線を私に向けていた。
「驚きました。令室からは何も話さない人だと伺っていたものですから。」
私は作為を施していた。深みのある声とともに柔らかく述べた。
彼女は、
「そう装っているだけ。」
と答えた。素っ気ない口調ではあったが、それはある意味、私への気遣いだと思えた。そう、お館様とのことでは、そう構ってほしくない、何らの同情をかおうとしないという具合に。
天女について、令室に聞かされている事情のあらましはこうだった。何でも性感染症に罹患し、そのため、膣や子宮も切除するものの、今や、脳も冒されていると。だから、言葉が発せられなくなったにだと。また、病に冒された身になったため、かなり痩せ細ってしまった。




