天女 第16回連載
「今回の仕儀については、さぞかし蔑んでいるのだろうが。」
そんな私の物言いに対して、当のKは、こう述べるのだった。
「完全に否定はしないが、お前が悪事をなさなかったんだから、良かったと思っているよ。」
「それは、友情の顕だともいうのかね。」
「そうは取れないものなのか。」
「今更って、気がする。」
互いに笑いをこらえている。それが互いのに表情から読み取れた。こんな風に過日のことを顧みた。
伯爵家のピアノの講師を辞めてしばらくしてK を尋ねたときのことだ。もちろん、Kにことの顛末を告げるためでもあった。それは一つの仁義と思えたからだ。何分、今回の令嬢の出奔では、彼の八ヶ岳の別荘を借りる算段だっただけに。だが、それは若干ながら表向きのことに過ぎず、所以は他にもあった。
「とんだ道化師を演じさせられたよ。」
そう言ったものの、Kは苦笑いするのみだった。もちろん、令嬢から父君に告げられた事も彼には述べていた。
だが、Kはその事に対して、
「必然性があったと考えているよ。」
と主知的な見解を示すのだった。
そうして彼は続けるのだった。
「安っぽい評釈はやめておこう。お前はそう見えてなかなか伶俐なところがある。どこか俺がお前に会いたがっていると察し、こうして俺に会いに来たのではないか。」
「相変わらず、冴えているな。察しのとおりだ。」
「そうなら、面倒な探り合いはやめておこう。ある筋からの依頼だ。食客としてピアノを弾ける者を雇いたいという御仁がいてる。なんなら口を利いてやってもいいが。」
「都合よくそんな話があるもんだな。」
私は、どことなく訝しそうな体を作為的にやってみた。もちろん、そんな小賢しいことは難なくKは看破しているのだろうが。だが、そんな私を窘めるわけでもなく、むしろ距離を置いてくれた。
「全くな」
Kがそんな物言いをしたものだから、それもある意味好意だと受け止めて私は、肯定的に捉えたような笑みを浮かべた。
こんな風に過日の出来事を振り返りながらピアノを弾く。ここは館のサロン。この背の重み。そして、頬から伝わる温もり。満悦の笑みで令室は、我が背にしなだれているのだろうか。




