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天女  作者: 南清璽
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天女 第15回連載

「君ともあろう御仁が。」

 それは、叱責するものでも、詰るものでもなく、どこか感慨を伴うもの云いだった。あの日の伯爵の、私に対するものいいに対しての感想だ。

 この出奔の計画は、事前に発覚してしまったのだ。そうしてことの真相あるいは私の真意を確かめたいとのことで、応接間に呼ばれた次第だった。その折、伯爵はさっきの言葉を私に発した。

 更には、私の計画のあらましを了知している次第も告げた。つまりは、八ヶ岳の友人の別荘に身を寄せることを。だが、動機を質すことも、それが如何に稚拙であるかという批判もなく。ただ、次に述べられたことには、音楽家としての自負、研鑽に虚無があることを知らされた。

「ピアノの教師としては、相当見込んでいました。現実に君についてもらってからは、ピアノの音は、かなり変わったというのに。それだけに、かなりの謝礼を払わしてもらったんですが。非常に残念ですよ。正直、幻滅しました。もう、言わずとも分かっているでしょうが、辞めてもらいますよ。」

「女中から聞いたのですか?」

 詮無いことだと分かっていた。だが、ある想いがよぎっていた。私は、この企てを考え、その準備に追われる様になってから、女中の眼差しに尋常でない、それは、一つの私への敵意といえるものを感じ取っていた。

 一方で、その女中の、並々ならぬ伯爵や令嬢への忠誠心の顕でも在ろうと思えたると、その女中の根底にある自己を顧みない貴徳さ、それに酔いしれる人間の強さを感じる次第となった。


「もちろん、答えなくていいものなんでしょうが。君も知りたいだろうし。娘からですよ。告解してくれたんです。やはり、この私に悪いと云って。」

 裏切られてという想いはなかった。むしろ、必然にあったと想いたいぐらいだった。でも、そこには実態のない、一種の諦観じみた、もの思いに過ぎないことも了知していた。だから、それには脆弱な面も感じ取っていた。そうして自問するのだった。裏切られたんだよと。それに気づかないのか?そこにあるべきは自嘲することなのだろうけど、そうともならなかった。やはり、生来の自己性愛の所以ともいえる想いもした。無償なんだ。美しいものなんだ。

 伯爵は、その際に、「お父様にいけないことをしようとしていた」と御令嬢が述べていたことも付言した。鷹揚にも、この歳末までの授業料を支払ってくれた。もちろん、それが体のいい和解金であったのも事実だ。


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