天女 第13回連載
だったら…。想定される結末がそうであれば…。やはり、令嬢の出奔を手引きするのを見合わせるべきなはず。しかし、そうはできなかった。だが、それは俗にいう、何かに取り憑かれた様な次第ではなかった。むしろ、ある意味、啓示を得ていた。つまりは、これは当為に違いないという具合に。ふと、令嬢の均整のとれたて麗しさに、いわば、美意識として、それが妙に安定性に欠ける面が必要であると思えてならなかった。付言すれば、身をやつし、破滅に向かうことが、求められているかの如くだった。
もしかしたら、たとえそうなったとしても一つのメタファーの域に収まるのではないか。すなわち、令嬢が何某かの翳りを帯びるのは。むしろ、その翳りによって本来の、美しさを覚醒できるためのものではと想う次第ともなった。だが、一方で、顧みて、自身の歪んだ面も、そういった思考からより感じる次第となっていた。
述べようものなら、明確な美意識だったと臆面もなくそうできたであろう。でも、否定できない一面もあった。そう、羨みからという。その身分の隔たりが、思慕と意識されない深層にある自我を造っていた。私は、意識して自己の殻に閉じこもり、令嬢への思慕を心底に押し留めようとした。それが最善だった。
ふと、令嬢の心持ちが気になった。令嬢は、行方をくらました結果、伯爵家の者が驚き慌てふためくのを愉快に感じるのであろうか。ただ、その様な愉快さを感じると思量するのは、自身が俗なる人間に過ぎないからだとも思えた。むしろ、激しく後悔し、罪悪感に苛まれる次第になる方が成り行きとしては、正しい様にも思えた。
Kは、承諾してくれた。例の八ヶ岳の別荘を使用させてくれる件だ。もっとも、そうなるものと考えつつ、いささか確信を持てなかったのも事実だった。むしろ、断ってくれないかという想いも存していたぐらいだ。やはり、心底においては、不安が残置されていたのは否めない。
ただ、そうでありながら、反面、実行するにあたり、主知的というべきあり様で、どういった次第で、執り行うべきかを思案していた。そうして、自分が、相当、あこぎな人間だと思へるぐらいになった。確かにこの出奔において試みようとしていることは、大胆そのものだ。それにも増して、私の企てに人々が、翻弄され、あたふたすれば、これほどない愉快さを覚えるだろう。




