天女 第108回連載
ご新造に、恋愛と結婚は別異なもので、それは自明でもあると述べたい処だったが、ご新造の言葉のとおり、令室との婚姻に関して、体裁を慮っていると思うと、その程度のことであっても、言えた義理でないと思えてきた。そうして、自身が令室に対し、曖昧な態度に終始しているのに気づくのだった。その反面、愛おしさのあまり、今や、彼女から求められるまでもなく、愛撫し、実事を持っている。こうして、いつしか、そういった負い目から、ありったけの愛おしさを示す仕儀になっていた。そんなとき、安堵を覚えたりもした。満悦の笑み。そう、令室はそういった笑みを浮かべるのだ。
「どうしたのかしら。さっきから何も話さないですいらっしゃる。」
「そうですね。」
ご新造は、ほのかな笑みを浮かべていた。それがどことなく、蔑みではなく、好意と受け取る仕儀になっていた。
「どうにも意気地がないもので。」
ご新造は、私が何を言わんとしているかを察した様だった。そう、体裁に拘泥するという。だが、これに深刻さを覚えるものでもなく、
「当てこすりで、どなたかと付き合ってみようかしら。」
と述べるのだった。
もちろん、受け流すしかない類で、私もご新造と同じく、微笑を浮かべることしかできなかった。ただ、形式的な物言いで嗜めるのも、一つの選択であったが、やはり、無粋な仕儀にしか思えず、少し遠回しに云ってみることにした。
「あなたの夫君だったら、きっと受け流されるだけですよ。」
「そうには違いないけど。」
意外に、「けど」という言葉に感じ入ってしまった。その収まりきらない感情。感じない訳にはいかない。だからとして何時もながらに先走りし、ご新造の心底を解析を試みるのだった。




