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天女  作者: 南清璽
107/112

天女 第107回連載

「累卵の危うさとは。言い得て妙ですね。」

 私は、これが単なる取り繕いに過ぎないことは分かっていた。それもこれも、この“累卵の危うさ”なる言葉を知らなかったからだ。それを何故か恥じていた。ただ、彼女の、いやご新造の内面の成長も、どことなくであるが感じていたのも事実だった。

「結婚するつもりはないのでしょう。」

 ご新造が訊ねる。でも、そこにある無機質な感とエッセンスとしての適当な皮肉が機智と感じられた。

「そうですが。」

「御令室は望んでいらっしゃらないのかしら。あなたとの。」

 私は、単に

〜それはありません〜

と応えられなかった。もちろん、令室が、望んでいないとも思えなかったからだ。いや、結婚を望んでいないというのは、自らの願望がそうさせているだけかもしれない。やはり、年齢の差は否めない。顧みて令室は、私に煮え切らない態度を見出しているのだろうか?

「それほど迄に気になりますか?」

 ご新造にこう尋ねたのも、どことなく興味本位である節が感じられたからだ。だが、こんなことを糺したばかりに会話が、思わぬ方向へと進んだ。

「少しは。でも、本当は、体裁が悪いからじゃない?」

 それは,図星だった。令室との年の差に夫婦の体裁としてどうなのかと思うと、結婚というものが望ましい選択でないと思う仕儀となった。だが、反面において、令室との結婚について、否定的な誘導を受けると、やはり令室に、愛おしさを感情を懐いている自己に気付かされもした。

「これほどまでに抗えないことを受容せざるを得ないと気付かされることはありません。」

「何だか、難しいわね。」

「すみません。」

 これは、思わず口をついてしまったという類の物言いであった。だが、ただ忘れてください、というのも忍びない思いがした。ただ、漠たるものゆえ、言葉で説明するのも難しくあった。


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