天女 第101回連載
「でも、因果だわ。殺人犯の人と寝れるなんて。」
「それは因果なことでしょう。」
私は、令室の言葉に、含みがあると感じた。もちろん、それは単なる皮肉に過ぎないが、同時に諦観ともとらうべきものも感じていた。ただ、その諦観とは漠たるもので、観念的に過ぎない。言えたのは、幾分かその諦観が、私自身への憐れみ、あるいは、令室との距離を保たなければならない、そういった悲哀だった。一方で、何処か皮肉や意地悪を施したくなりもした。
「何せ、あなたのご主人に手をかけたのですから。」
「やめて欲しいわね。そんな言い方。」
配偶者であったことは否定できない、だから避けたい。そんな令室の心理を知っているだけに、私の述べたことが、相応な効果があるのは、分かっていた。配偶者としては、余りにもお館様は呪われた存在だった。
「皮肉に対して皮肉で返しただけですよ。」
少々、つまらない意地を張ったものだと、顧みた。一方で令室も、その表情から、私のその有り様を受容し、自身の包容力を作為として、露わなまでに醸していた。
「そんな風に無気になる処がいいわね。」
やはり、令室にあしらわれたと見るべきだろか。そうして、澄み切った目で微笑み、穏やかな表情で見つめていることに気付いた。そうして、気付かされるのが、以前ほど物憂げな表情を見せなくなったことだ。
偏に自分に負い目があるからだろうか。ただ、今の私には、殺人を犯したという負い目が、いい具合に作用しているのも否めなかった。元来、私には卑屈な面があったが、当然なまでに、そうできた。そうして、今宵も令室のイニシアチブで実事を持つ。きっと、実事だけでなく、私の境涯をも、その支配下にあると考えているのだろう。やはり、愛おしい存在であるのは、告げるべきであろうか。そう想いつつも、一笑に付されるやもという考えが交錯するのだった。




