天女 第100回連載(令室との夜)
「だったら、しばらくそのままにしておくしかないわね。」
令室にその日のKとの話の顛末を伝えると、そう述べた。それは、言うまでもなく、診療所として貸し出さないことだった。それによって、自身の犯行の発覚の可能性が低くなる。ただ、かつては違い、手管ではなく、好意として受け止められた。発覚しない様にし、その恩義です私を束縛しようとする、そんな意図が、窺われないふうだった。一つには、以前とは幾分かは異なる、打ち解けた感を抱けるようになっていたこともあろう。何かにつけて、揚げ足を取り、叱責する、そういった態度を全く取らなくなった。だから、今までとは違い、令室に対し、構えたりしなくなった。
いや、手管を施しているのは、令室ではなく、むしろ、自身なのではないか。そう想いに耽るとともに、彼女のその胸にしなだれ、我が頬を埋めていた。二人のそんな空間においては、全てにおいて、令室の求めに応じる、いわば受動的な流れにあった。一方で、令室は令室で、そんな私の態様に満喫しているかの様だった。
「何か言ったら。」
さて、令室は、こんな言葉を交わさないあり様を嫌ったのだろうか。
「言葉なんて、安っぽいものですよ。」
その言葉の内容とはほど遠い、まるで本来の意義に乏しいものも感じていた。何らの考えもなく、口をついてしまったものだった。
「こうしているだけでいいって。」
だが、この私たちの会話には、滑らかさなどなく、むしろ、朴訥した感があった。こんな優雅さに欠けた時間はあながち無意味なものとも言えない。無為な時。私と同様に、令室も、きっと満喫していると。でも、作為を施す術が、ないわけではなかった。子どもの様に、駄々をこねる振舞いの方が、令室の母性をくすぐれるのではないかと思った。だが、令室の方が、その方面では、私よりたけているのは間違いなかった。微笑を浮かべていた。むしろ、女として、私を支配できたからだろうか。




