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第6話 サプライズ

──数日後。


頼仁は再び支部長室を訪れていた。

というより頼仁の方から話があると告げられ、羽衣、正輝と杏奈、遊真の四人が集まっているところに彼が顔を出したのだ。


「あ、頼仁くん。お話ってなんですか?」


「杏奈には先に伝えたんだけどさ、実は数日前に聞いたあの昇進の話、受けることにしたんだ!」


頬をポリポリと掻く彼だが、その場にいた誰もが彼の言葉に驚嘆しなかった。


彼の気持ちを考えれば、仮に引き止めたところで拒否できるわけもない。

ましてや、全員が祝福を送ったのだ。この話を蹴る方が不自然だろう。


「ふふ、分かってました。頼仁くんならそう言うと思っていたんです」


「まぁ、滅多にある話じゃないですしね」


「頼仁さんにこれ以上の言葉は不要かと思いますが、改めておめでとうございます!」


「先輩、正輝、遊真……。ありがとう」


順々に言葉を述べる。がしかし、妹である杏奈だけは神妙な顔つきでその言葉を受け止めていた。


「杏奈? 大丈夫か?」


「ん? ああ、大丈夫。気にしないで」


声をかけられればパッと表情を変えるものの、それはすぐさまへの字を作った。


付き合いの長い正輝や、頼仁になら気付ける些細な差。

そういえば最近、彼女が考え込んでいることが多くなったな、と正輝。


最も、遊真と羽衣に関しては浮かれている部分もあるのだが。


「それじゃ、俺は準備をしてくるよ! 何かあったら呼んでくれ」


彼が部屋を去ると同時に、杏奈もそれに続く。

背後でワイワイと歓談する二人を置き去りにして、正輝はその背中を追った。



「ねぇ杏奈」


支部長室を出てすぐ、彼女には追いつくことが出来た。

元々逃げようとか隠れようとしていたわけではない。ただ考え事をしながら廊下を歩く彼女を呼び止める。


「んー?」


「お兄さんのことで悩んでるなら相談乗るけど」


「あー」と杏奈は声を漏らした後、正輝の顔をじっと見つめ始めた。

その顔から感情を読み取ることは難しく、正輝からしてみればやや恐怖を感じたのだろう。


彼はそっと目をそらしながら杏奈には聞こえる程度の音量で呟いた。


「なんだよ」


「あっ! そうだ、そうじゃん!!」


「な、何が?」


何がきっかけだったのかは定かではないが、突然ハイテンションになった彼女に訝しげな目を向ける。

一方で彼女は正輝の肩を容赦なくバシバシと叩きながら目を輝かせた。


「うん、やっと決まった! ねぇ正輝、一緒にサプライズパーティーを開かない!?」


杏奈は正輝に詰め寄ってくる。目を爛々とさせて、まるで悪戯を思いついた子供のようだ。

正輝の想定とは真逆の答えが帰ってきたためだろうか。目をパチクリとさせた。


「サプライズパーティー……って、もしかして悩んでたのって頼仁さんの送り出し方を考えてた?」


「うん、ずっと考えてたんだ。お兄ちゃんのために何が出来るんだろうなぁって。でさ! 料理なら多少自信あるし、こんな私にでもきっと上手くやれると思うんだ!」


普段こそ素っ気ないものの、その言葉は誰よりも頼仁のことを考えている証明だろう。


「なるほど? それでサプライズパーティー」


うん、と元気な返事。先程までとの変わりように、本当に悩みはこれだけだったのだろうと彼は察する。

ニコリと笑って相槌を打ってみせた。


「うん! いいんじゃないかな。そういうことなら僕も全心全力で手伝わせてもらうよ」


「マジ? あんた、意外と良い奴だったんだ」


心の底からびっくりしたように、仰け反り口元に手をやって大げさに驚いてみせる杏奈。

乾いた笑いが響いて、正輝はジト目を返した。


「あーあ、なんか今のでやりたくなくなったなあ」


「はぁ? ひど」


そんな言葉のやり取りから、徐々に笑いが生まれる。

どちらから笑ったかもわからないが、それはいつもの応酬だった。


「ふふっ、まあいいや。僕も頼仁さんには色々とお世話になったしね」


それじゃあ、と杏奈はサプライズパーティーの日程を告げる。

ちょうど一週間後、Y市支部に研修に行くことになった頼仁が帰ってくるらしく、その日を狙ってサプライズを仕掛けようとのことだ。


正輝も特に意見や反論はなく、杏奈の主導の元で進められていくことになるらしい。


もちろんそれには支部長である羽衣や遊真の手伝いも不可欠だろう。

しかし、あの二人なら喜んで協力してくれるはずだ。とそんな確信が杏奈と正輝にはあった。


「うん、じゃあ決まりね。手伝うって言ったからにはテキパキ働いてもらうから」


にんまりとしてやったり顔な杏奈に、一瞬げっとしたものの、やれやれとため息をついた。


「うんまあいいけど……。杏奈のそういう発言、嫌な予感しかしないんだけど……」


正輝の返答が嬉しかったのか、それとも未来への希望か。


彼女はいつも以上に嬉しそうに笑っていた。

幼馴染特有の距離感っていいですね。

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