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第3話 頼れる背中

連日のように降っていた雨は息を潜めたように静まり、蒸し暑さを感じながらも彼はM市市内でパトロールを行っていた。

これをすることで、先輩である日比谷 頼仁に追いつけるのかはわからない。

それでも、自分なりに出来ることを実践していくしかないのだ。


「どうやら今日も街は平和なようだな。それはいい。この平和を維持すれば、また憧れに近付くことが出来る!」


やや芝居がかったような口調で、少年は満足げに辺りを見渡す。

彼は星屑(ほしくず) 遊真(ゆうま)。落ち着いた黒髪黒目の少年で名前だけは既に支部でも上がっていた通りだ。

しかし、この少年は正義のヒーローというものに少し酔いしれているらしい。


そんな最中、突如衝撃音が聞こえてくる。


彼には、それがすぐに車の事故であることが分かった。

何かと何かがぶつかり、壊れる音がしたからだ。

突如巨大な鉄球が建物を破壊したようなことがない限り、恐らくはそうだろう。


音の発生源はかなり近く。遊真ならばすぐに駆けつけることの出来る範囲だ。


「どうやらこの街の平穏も、ここまでということか。だがしかし、俺がいる。これ以上のことはさせない! さぁ待っていろ! 今すぐその息の根を止めてやる!」


ニヤリ、と少し口角を上げると彼は地面を蹴り駆ける。

どうやら遊真には、それが何らかの陰謀であるという思考があるらしい。



──数分後


白煙を上げた、市内バスが見える。

運転席の辺りが大きくへしゃげてしまっていることから考えても、バスの単独事故だろうか。


しかし、その仮定を否定するかのように、バスの目前では一人の男が愉快そうに笑っていた。


「ははは! 今見えたぜ、この中にいるんだろ?」


彼は独り言を発した後、バスのドアをこじ開けようとする。


周囲に一般人は──バスの中に数名。

それを確認した遊真は、即座に一般人無力化エフェクト《ワーディング》を展開した。


一瞬、辺りは強い光に包まれる。

しかしそれは敵の視界を撹乱するというよりも、視覚から強い信号を与えることで脳を一時的にショートさせ、気を失わせるといったものだった。

それが功を奏したことは、確認するまでもない。


「俺の街を荒らすとはお前、随分と洒落たことをするじゃないか。だが、それもここまでだ! この俺の極光にて、お前を消し去ってやろう!」


「ん? なんだオメェ」


まさか、それが自身を打ち倒す刺客とは思わなかったのだろう。

齢十七の少年だ。男からしてみれば勇敢にもかかってきた哀れな子供に見えたらしい。


ただ《ワーディング》も展開されたこの状況で、平然と突っ立っている遊真を見くびるほど男もやわではなかった。


「ふっ、無粋な輩に語る名などないな」


そう言いつつ、遊真は右手の人差指にレネゲイドを集め、まるでレーザー兵器のように"バスを"狙う。


男はとんちんかんな方向に飛んでいったレーザーを鼻で笑った。


「お? なんだ、ノーコンちゃんですかぁ? ……ぐっ、おあっ!!」


遊真の放ったレーザーは、男の背後にあったバスに反射し、的確に背中へとダメージを与えた。

それだけではない。反射と同時にいくつかに分離したレーザーは、男の腕や足なども貫いていく。


「どうやら、目が見えていなかったのは貴様のようだな」


男は呻き声をあげながら倒れ伏す。意識はもはやないが、殺してはいない。

遊真は手加減こそしていないが、相手はジャームだ。この程度の攻撃で殺しきることなど出来ない。

それが分かっていてなお、そうしたのには理由があった。


敵は可能な限り捕らえ、情報を吐かせる。

それが遊真に命じられた使命だったからだ。


「こちら"極光(きょっこう)"。M市C大通りで事件発生だ! 事件はこの俺が収拾させたが、一般人がいる。応援を頼む」


「わかりました、すぐそちらにエージェントと医療班を手配します」


UGN M市支部と通信を終え、彼は一息つく。

しかし、まだ仕事が残っているのだ。


「さて、縛り上げるとするか」


男をオーヴァード専用拘束具で縛り上げ、周囲を確認する。

しかし、彼の口元は隠しきれない喜びから綻んでいた。


そう、普段ならば平和なこの街で、たった一人で敵を倒したのだ。

遊真にとって、これはまたとない自信に繋がった。


──そんな油断が招いた悲劇か。

気が付けば背後には、男の影があった。


腕は熊のような毛で覆われていて、また鋭い爪。

どこかで聞いたことがあるが、熊はその気でなくても人間の肉を簡単にえぐり取ることが出来るらしい。


すぐさま回避行動に出るが、もう遅い。

鋭利な爪が眼前へと迫り、思わず目をつむったその時だった。


「俺の後輩になんか用か、おっさん」


そこでは頼仁が、襲撃者の首根っこを掴み上げていた。

驚きはしたものの、男はすぐさま対象を変え、頼仁の腹部に後ろ蹴りを入れる。


「良い判断だ。だけどなッ──!」


それを武具生成エフェクト《インフィニティウェポン》で受け止めながら、徐々に全容を明らかにさせていく。


『モルフェウス』の生み出す大振りの鉄槌。

頼仁の身長ほどもあるそれを片手でたやすく振り、一撃で男を昏倒させた。


「大丈夫か? 遊真」


「申し訳ありません! 俺にもまだ、油断があったようで……。頼仁さんこそ、お怪我はないですか?」


悔しげに遊真が口を開く。

その気持ちが分かるのだろう、頼仁は彼の肩に手を置いた。


「ああ、ないない。……にしてもこいつ、お前が倒したのか?」


先程の襲撃者……ではなく、拘束具を付けられている男を指差す。

座らされてはいるが、未だに意識はない。


「ええ、そちらは自分が倒しました」


「なんだよ遊真、随分と強くなったんだな!」


口元が緩み、瞳には優しい光が宿っている。

遊真のたくましさを実感するように、肩に置かれた手が何度か叩かれた。


しかし、やがてその手は彼の頭へと伸びていき、優しく撫でられる。

恐らくは癖なのだろう。妹がいる弊害とも言うべきか。


なんとも言えない表情を押し隠したように取り繕う遊真が、素知らぬ方向へと視線を向けた。


「いやぁ、先輩として鼻が高えな」


「いえ! それでもまだ、頼仁さんには敵いませんよ!」


「そりゃあ……そう簡単に追いつかれちまったら、先輩としてメンツ丸つぶれだからな」


当たり前だとでもいうように、苦笑してみせる。

万が一にも先輩としている以上は、遊真よりも歴は長い。

彼にも自身の強さへのプライドがあるのだろう。


とはいえ、それを誇示することがないのが頼仁の良いところである。

それを遊真自身もよく知っていた。


「さて、パッと見た感じ敵の増援はねえみたいだし、後処理すっか」


「分かりました。俺も手伝います」


そうして一般人の退避や捕らえた二人の男を安全な場所へと運び出して、仕事は終わる。

後処理を行うと言っても、担当のエージェントが来るのを待つだけに過ぎない。

彼らは一度、M市支部へと戻ることとなる。

『ノーコン』ってセリフを聞いた時に全くわからず調べました。

野球の用語で、ノーコントロール(ボールを投げる時の制御力)って意味でした。ご参考までに!

(私が知らなかっただけで常識かもしれませんが……)

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