見つけて
「見てもらえるって嬉しいことなんだな。」
「そうだよ、だから俺にもっと感謝しろよな。」
小さい時から文章を書くのが好きで、よくノートに物語を書いていた。自己満足だけじゃ足りなくて、友達の蒼にも見せていた。今考えれば、自分の妄想を他人に見せるなんて恐ろしいことよく出来たなぁと感心を通し越して恐怖すら感じる。
でも、蒼は素直だった。いつもちゃんと読んで感想を伝えてくれた。
「面白かったよ。続きは?この主人公は最後幸せになるの?」
「うん、お姫様を助け出すんだよ。」
「そして2人は結婚するの?」
「うーん、そこまでは考えてない。」
「そっか、俺この、主人公の友達が好きだな。優しくてカッコいい。」
「エヘヘ、僕も気に入ってるんだ。」
「主人公はこの友達とずーっと一緒にいられたらいいのにね。」
この友達の性格は蒼から取っているなんて言えなかった。なんとなく気恥ずかしかった。
そしてほんの少し、少しだけだけど、主人子の設定は僕を考えていた。
蒼とは小学校、中学校とずっと同じ学校だったが、高校は別になってしまった。スポーツ強豪校に通う蒼と、進学校に通う僕。
なので中学の時みたいに頻繁に会えなくなった。しかし、僕の創作意欲は留まることを知らず相変わらず作っている。でもそれを蒼に見てもらえることが少なくなっていった。
久しぶりに、蒼の部活がない休日。家に呼んで物語を読んでもらっていた。
「うわー、またいっぱい書いてるな。」
「勉強の息抜きのつもりで書き始めちゃうと止まらないんだ。」
「成績大丈夫なのかよ?」
「学年トップ10内はキープしているから問題無し。」
「頭の出来が違う奴は羨ましいな。」
「僕は運動神経のいい蒼の方が羨ましい。」
「今度の試合、レギュラーもらえるかもしれないんだ。」
「それはすごいじゃんか。応援行くな。」
物語もそこそこに、近況報告が思いの外長引いてあっという間に外が暗くなった。
「お前さ、俺に見てもらうだけじゃなくてネットに投稿したりしないの?」
ふと蒼は突拍子も無いことを言った。
「ネットか、少し考えてみたことがあるんだけどやっぱなんか怖いんだよね。悪口書かれたりしたらスッゲーヘコむ。」
考えてはいたが、なかなか実行に移せない性格がここになって出てきた。
「最初のうちは悪口どころかスルーされんのが当たり前だよ。目についてもらって評価がもらえればそれで良しだよ。」
「スルーされて当たり前ねぇ。でも俺は蒼に読んでもらうことが、」
言いかけてやめた。この続きを一体なんて言おうとしたんだろうか。自分でも分からなかった。
「ネットにアップされてくれれば、俺が見つけて最初の読者になるよ。んで、感想も評価も付けるし。そしたらスルーじゃなくなるだろ?」
蒼は優しい。本当に優しい。自分だって部活とか勉強とかで忙しいのに僕のことも気にかけてくれる。
「じゃあ、小説投稿サイトに自分のページを作ったら後で教える。」
「待ってるな。」
そう言って蒼は家に帰っていった。
「俺以外にも見てくれてる奴いんじゃん。やっぱりお前才能あるんじゃない?」
後日、サイトにアップした小説の閲覧数を蒼と見ている。
「感想とか無いし、評価も低いけど。」
「でも、評価するのも手間だろ?わざわざやってくれているってことはありがたいことだぞ。」
僕以上に喜んでくれている蒼を見て、その蒼の優しさが嬉しかった。
「これからもどんどんアップしてくれよな。大先生!」
蒼は笑いながら僕の背中を叩く。
「先生とか、そんな、僕には、」
無理だよ、不可能だよって言おうと思った。けど、目の前にこんなに僕の考えた話を面白がってくれる人がいる。自分が否定したら駄目な気がした。
「これからも一番の読者で、一番のファンでいるからな。」
ああ、蒼はどうしてこんなにも真っ直ぐなんだろう。
僕にもその真っ直ぐな気持ちが少しでもあったなら、あったなら。
つまりはそう言う事です。