8話 ドリンク販売しました!
お話が進むことがない……今はアルケミ屋とアクアを育てていかなきゃ
お話の中ではもう一回給料が支払われるくらいには時が進んでいます……初任給とか書きたかったね
ふっふっふ……私は天才なのかもしれないのです!
本日の営業を終え、ようやく私は最近かかりっきりになっていた作業を完了することに成功したのです
ついに……ついに完成しました!ちょっと美味しい栄養ドリンク!!
美味しくはないと言われた状態からなんとか改善することができました
栄養ドリンクとしては完成していたのですが味には納得いかず、薬草らしい匂いや苦みをどうにか消せないものかと色々試行錯誤していたのです
果物の果汁を入れるだけでは爽やかさが少しだけ足されるだけで味の改善とはいきませんでしたが、意外にも一度熱を通すことで苦みや匂いなどが柔らかくなることが分かったのです、効果のほどは最近毎日お店に顔を出してくれているセイワさんとエコノさん、イネスさんに確かめてもらいましたが問題ないそうです
そこに果物の果汁とバブルスライムの亜種と言われているソーダスライムの粉末を入れてあげるとシュワシュワとした感覚が新しい爽やかな栄養ドリンクの完成なのです
ソーダスライムはシャボン草原には多く生息していませんが行商人の方が日用品として取り扱っているほどにメジャーな魔物です
効果としては錬金術で液体と混ぜ合わせるとその液体がシュワシュワします、お酒やジュース、たまに料理に使われていてお肉を柔らかくしてくれるのです、私も使います
ソーダスライム自体も体から常に小さな泡を発生させています、数匹だと問題はないそうですがソーダスライムが大量にいる場所に迷い込んだりすると意識を失って死んでしまうそうです
その性質から毒と思われていましたが基本的には空気と同じようなもので一度に大量に吸わなければ問題が無いと言うのが今の一般常識になります
洞窟や小さな部屋にソーダスライムを見かけたときだけ注意が必要ですね
欠点と言えば市販のドリンクよりも高くなってしまう事です
果物の果汁とスライムの素材はそんなに高くはないのですがそれでもお金がかかります
この栄養ドリンク自体は1000AG分の素材があれば5000AG分は用意することが出来ますがそれは従来のドリンクを買う時は薬瓶や水筒を買う人が用意しているからなのです
錬金術師が薬を作るときも基本的には薬瓶代までは含めず別料金を取ります
私が作った栄養ドリンクは作ってすぐ飲む分には問題ないのですが、密封されてない入れ物や振動に弱くお客さんが持ってくるような水筒では保存に向きませんし、薬瓶にしても一々依頼があって作るようだと栄養ドリンクとお洗濯のどっちが本業なのか分からなくなってしまいます
困っていたのでシャープさんに助けを求めると意外にもあっさりと返事が帰ってきました
「別に薬屋として売り出すわけじゃないしね、シュワシュワ有りのやつはお店でしか飲めないし飲み終わったら瓶は返してもらうようして、持ち帰ったりしたい人には作り置きしてあるシュワシュワ無しのドリンクを持ってきてもらった瓶に入れて売ったらいいんじゃないかな」
「おお~」
「という壁にアクアちゃんがぶち当たると思って既に保管用の樽とお店に置く用の薬瓶は用意してあるんだよ、シュワシュワの保管用には冷庫がアタシの商店に残ってるからそれを使おうね」
流石は元銀級商人のシャープさんなのです、既に用意が出来ていました
冷庫が余ってるというのも裕福な証です、一般のご家庭には冷庫はあるものではないのですが使わずに残ってたというから元々のシャープ商会の繁盛具合が窺えます
「原価率は……他のところと一緒で良いかな。余り安くし過ぎると市場破壊と見なされて色々恨まれるからね、シュワシュワは少しだけ高くするけど誰でも飲めるようにしたいよね?」
「ですです、あんな美味しくないものを仕方なしに飲んでる人がいると思うと私は悲しいのです。普通に飲める栄養ドリンクが広まればあんなものすぐに淘汰されるのです」
「過激派錬金術師だ…!アクアちゃんたまに言葉が強くなるよね」
そんなことはないのです、失礼な人なのです
”ででんと販売!アクアちゃん印のアクアドリンク”
またセンスのない看板がお店の正面に飾られてしまいました、そうですシャープさんなのです、私がエナジードリンクを最初に作った時から発注していたようで変更の暇もありませんでした
「アクアドリンク!清涼感溢れるでしょ!!」
「水&水みたいな名前なのです……エナジーアクアとかそういうのでもよかったのでは?」
「アクアちゃんがひどい……」
およよ…とシャープさんがまたカウンターに突っ伏して嘘泣きを……本当に泣いてるのです!?
仕方ないので頭を撫でてあげます、ちょっとだけ持ち直しましたね
「大の大人がみっともないのです、アクアドリンクもいいかもです」
「…本当?じゃあ名前……ダサくない?」
「いや、それは否定できないのです……」
「うわああああ!!」
17歳の女の人がまた泣いてるのです……
お店の名前を決めるときもそうでしたがシャープさんのこういったところのセンスは正直に言ってしまえば宣伝っぽさがあるのです、必要な情報以外にも色々くっ付けっちゃう所とかですね
何はともあれ栄養ドリンクの販売開始なのですが、そもそもどうして洗濯屋さんに栄養ドリンクが?と思われてしまうかもしれません
ただ私たちのお店に来る人は疲れている人も多いのであながち間違いではないのです
「とりあえず今日はシュワシュワ10本と普通のを30本分作るのです、早速販売しましょう」
「一本は普通の栄養ドリンクと一緒で500……シュワシュワは550かな!これは売れるぞー!!」
「おー!!まずはよく来てくれる冒険者さん達にオススメしてみるのです」
「え……栄養ドリンク!?……いや~アクアちゃんのオススメって言ってもな~……今日はまだ疲れてないから遠慮しようかな」
ハハハ…と乾いた笑いを浮かべながらそそくさとお店を去っていく強面のおじさん冒険者さん、強そうなのは見た目だけでチキンハートなのです
お昼にもなって販売数はゼロなのです……皆さん栄養ドリンクと聞くとヒクヒクと口角が動いた後は逃げるように去っていくので販売まで結びつきません
見た目も改善できたし臭いもしないのですが冒険者さんたちは若いうちに栄養ドリンクを飲まされたり飲まざるを得なかったりといい思い出がないそうで、深く刻まれた傷が癒えていないそうです
「中々売れないね」
シャープさんも意外に思ったのが苦笑しています、私も肩を落とすしかありません
「そうなのです、一般の人も栄養ドリンクを飲むほどではないって断られちゃいましたし」
どれだけの悪行を成せばこんなに避けられる存在になってしまうのかと作ったことを後悔しましたが少なくとも私が作った栄養ドリンクは美味しくなったので、食わず嫌いせずに一度だけでも飲んでほしいのです
「うーん、売り上げの候補になる力はかなり高い製品だからここらへんで手を打つしかないね、一回分の洗濯料金をタダにする代わりに飲んでもらうとかそんな感じで」
そんなこんなでやってきたのは……
「ええと……私が飲めば良いんでしょうか?」
いつの日かやってきてくれた奥様なのです、お名前はシフォンさん
お子さんの上二人が服を多大に汚したので持ってきてくれたんだそうです、旦那さんも無事に護衛任務から帰ってきて家事も手伝ってくれているし子供たちも手伝いを積極的にやってくれているそうです
ついでにセイバータイガーの討伐の際に大盾で体当たりを受けきったのが奥さんの旦那さんなのです、凄い人が旦那さんですね
「疲れは……そうですね、嘘を言わないのであれば……」
「お子さんが4人もいると大変ですよね、というわけでこれが栄養ドリンクなのです」
「夫から話は聞いております、とても美味しくないんですよね?」
あれ?ちょっと嬉しそうなのです??
奥様にはシュワシュワ版の栄養ドリンクを飲んでもらいます、冷庫から取り出すとキンキンに冷えているのです、暑い日なんかに飲んでもらったらとっても良いかと思います
キュポンと薬瓶の蓋を開けると奥様は特に躊躇することなくゴクゴクと飲み干して……
「……美味しいですね……美味しいです……」
あれ!?ちょっと残念そうなのです!?
「普通のドリンクくらい美味しい…特に冷えたシュワシュワはすごくいいですね」
「そうなんです、一回でも飲んでもらえれば分かってもらえるんですけど」
「夫にこの普通のを持っていってみます、私が美味しかったといえば何も疑わず飲んでくれます、そこから冒険者仲間に広まるかと」
「銀級冒険者に広めてもらえるのは大きいねえ、毎度あり~!」
奥さんは数本の通常版栄養ドリンクを買っていきました……これで口コミが広がって行けばいいんですけどね
「お?ついにアクアちゃんが栄養ドリンクを生み出したのね」
「アクア―!このシュワシュワ付きのやつを一つ!」
エコノさんとセイワさんがやってきました、この二人は事前に私の試作品を何度か飲んでいるので抵抗感もなくなっています
新作については私の判断で販売したのでこの二人も初めて飲むのです
一本開けるとゴクゴクと飲んでくれました
「美味い!もう一本!!」
「栄養ドリンクを2本も飲んだら体壊すわよ、しかしまた美味しくなったわね。一杯売れたんじゃないの?」
それが全く売れてないのです……宣伝力の低さもありますが、宣伝力以前に栄養ドリンクっていう名前に全てが負けてしまっているのです、何て忌々しい存在なのでしょうか
しかし飲んでくれた人3名には好評です、このままじっくりと販売していくことにしましょう
「うおー!!アクアドリンクをくれー!!」
「俺もだー!!」
「持ち帰りで20本分!!」
あわわわわわ!!大繁盛してしまいました!!
事の発端は銀級の旦那さんが一口飲んで効果を確認した後に冒険者ギルドへ持ち込んで仲間に勧めたことからなのです
仲間内で奥さんが何処からか持ってきた栄養ドリンクを飲むとその美味しさに感動して周辺の冒険者さん達にも少量を振舞ってそれが広がりに広がって労働者の方たちなどにも伝わりお店は洗濯物を持ってくるついでに栄養ドリンクを求める人ではなく栄養ドリンクだけを求める人たちが並んでいます
栄養ドリンクの効果は誰もが認めるモノで、その日の朝に飲めば一日は疲れ知らずに動くことが出来、夜に飲んで一睡すれば体の疲れが全て吹き飛ぶという代物でしたがその味故に誰もが避けてきました
その垣根が取り払われたと疲れた労働者が大挙して押し寄せているのです
「わはははは!最高だね!!」
「笑ってる場合じゃないのです!!もう作り置きのドリンクも在庫の材料も全部尽きちゃったのです!!」
過去最高の売り上げを上げて嬉しそうなシャープさんですが、まだ数十人の人が列を成しているのにお店の在庫はスッカラカンです、販売とか言ってる場合ではありません
シャープさんに言われていっぱい作ってあったのですがもう一滴も残っていません
「うえー、これじゃあお客さんが納得しないのです」
「ないもんはしょうがないし予約を受け付けてその分を優先して作るようにしようか」
私では暴徒と化した労働者の方々は押さえられないのでシャープさんが店頭で販売をしてくれます、残った人たちは欲しい分と自分の名前を帳簿に記載して渋々と帰っていきました
何人かは普通に洗濯物のお客様でした、お待たせしてしまって大変申し訳ないのです
販売には私は出ず、洗濯業務と販売業務は私とシャープさんで別々に分けた方が良さそうですね
「おーっす!アクアドリンク売れてるなー!!」
「もはや薬屋さんなのでは?ってくらい本末転倒な事になってるわね」
今日もいつもの二人がやってきました、冒険者の間で人気になったアクアドリンクの第一人者としてまだ手を出してない冒険者さん達にもジワジワと勧めて行ってるのだそうで、大分売り上げにも貢献してくれています
お洗濯の方も新しく街にやってきた冒険者さんにも教えてくれているそうです
「いやー、こりゃ一発当てたなとアタシは思うね」
「売り上げとしては凄い良いのです、一回の作成量はまだ後20倍は増やせるので今日みたいな事はなくなるはずなのです、日持ちもするので作り置きしておけばお客さんが帰らずにすみますね」
『20倍!?』
お二人が驚いていますが私の作業空間内いっぱいに素材を入れてしまえば今の作成量なんて大したものではないのです
あれ?私ってもしかして凄い錬金術師になってるのでは?
「あはは、アクアちゃんも良い感じに規格外っぽさを出してきたね」
「いやいや、まだまだ石級の錬金術師なので……」
「アクアちゃんのその石級宣言もそろそろ白々しくなってきたわね」
「こんな石級いるかよって話だよな」
しかし石級なのは本当のことなのです、石級の更新には1年……やっと一月過ぎたくらいなので、もうしばらくは石級のままなのですね
冒険者と商人は実績によって即座に等級が更新されますが錬金術師は一年ごとになります、これは錬金術に関しては勉強が必須で突発的に実力が伸びることが殆ど無い為なんだそうです
「この栄養ドリンクの実績も考えれば……鉄でも上位か銀にはなれるはずなんだけど、問題は錬金術ギルドの測定方法なんだよね」
実際にどうやって計測されたかというと、ポンと素材だけ出されてやってみろって感じでした
やってみろと言ったって…何を?と思っていたらそのまま試験が終わってしまいました
今になって思うのはあれは一般常識的な素材の分解と変化と合成をしなければいけなかったのでしょう
多分そうかな?と思ってやってみようとは思ったのですがそもそもどうやって変化させるのが正解すら分かりませんでした
「本当に完全にド素人が来ることを考えてない試験っていうのもそりゃあるけどね」
「私としてはおじいさんと試験官さん達が本当にガッカリしたんだろうなっていうのが手に取るように分かるのが辛い」
「アクアちゃんにはアクアちゃんの錬金術があるんだよね、そこを加味してテストするべきだったけど責められるものでもないね」
今度こそはちゃんとテストして等級を上げたいのです、最近忘れがちですが錬金術の教室にも通わないといけないですね
お給料は最初の条件よりも順調に上がっています、シャープさんは成果によってお給料を上げてくれたので大変助かっています
「で、今までの20倍の量が作れるのは朗報だね、もっともっと作っちゃおう、販売に関してはアルバイトを雇わないといけないね。それはこっちでまた求人を出しておくよ」
「ついに従業員が増えるのですね!楽しみなのです」
新しい従業員さん……きっと眼鏡のお姉さんがまた案内するのでしょうか、楽しみなのです!!
もう少し掘り下げたお話、3~4話くらいかかりそうなお話も書いていきたいのでそろそろ挑戦してみます
割と深刻な問題なのですがアクアの文章がですます口調で書いてるときにモロに伝染してきています…