7話 銀級冒険者とは
Q.2週間も何をしてたんですか?
A.旅行に行ったり夜勤だったりをしていました……あとゲームを少々
冒険者の目指すべきところは銀級が実際の頂点であるというのは冒険者の中でも一般的な認識である
どの町へ行っても中位への魔物の備えとして重宝され、町と契約をすることでただそこにいるだけでも住むのに困らない金銭を受給することができることが出来る代わりに有事の際にはその対処に当たることが義務付けられている、銀級になれば毎日危険なダンジョンに潜ることも、魔物や動物を狩ってその日暮らしの生活を送る必要もなくなる
その為銀級よりも上、金などを目指す冒険者は多くはない
齢12にしてソロ銀級冒険者の証を首に掛けた少年、ウィル・ヴアルガンドは王都にあるいつもの宿屋でミルクを飲んでいた
少女のようなあどけなさの残る顔立ちに肩ほどまでの長い金髪、成長期もまだなのか声変わりのしていないような高い声で一般層からの人気は高く、冒険者の活躍をまとめた新聞屋などでも多く取り上げられている
服装は法衣のような見た目ではあるが、それらの素材は魔力を効率良く体内に吸収することが出来る数百万AGは下らない超高級装備だ
今飲んでいるミルクも下級上位の魔物を家畜化したものからごく少量採れる一級品のものでお値段一杯当たり1万AGはくだらないお子様には勿体ないほどの嗜好品であるが、彼にはその料金を払う必要はない、宿屋から料金は要らないと言われているからだ
しかしこれも銀級であればこそであるが、彼の場合はソロで銀級認定された冒険者でありその上最年少である、将来は金級も間違いないとされており一般民衆からの人気も高い、こうして有望株の冒険者にコネを作っておくのも王都の商売人なら当然の判断であった
美味しかったよ、とコップを置いて部屋に戻ろうとする彼にミルクを直接渡した支配人は形だけの挨拶を行う
「ヴアルガンド様には、今後も御贔屓にしていただきたく」
「うん、僕もここの宿屋の部屋は好きだからね」
王都の民からすれば、銀級冒険者というのは珍しくはあっても稀有で持て囃すような存在ではない
それは王直属の近衛兵はそれこそソロで銀級足りえる実力を兼ね備えてるものも多く、ウィルも等級だけで言えばその中の一人であり、王都には5組の金級冒険者が控えている為だ、しかし彼は銀級の冒険者の中でも際立って優遇を受けている
ミルクを飲み終えてウィルが部屋の中で魔法の構築を行っていると急ぎの用事がある場合に行われるノックがドアから響いた
新しい魔法を構築している為誰かに見られてはいけない、ウィルは即座に魔法式を削除した
「入っていいよ」
失礼しますと軽く会釈をして入ってきたのは冒険者ギルドの幹部の男性である
挨拶もすぐに済ますと本題に入る
「南門側のダンジョンからレイジタートルが発生しました、対処をお願いします」
「レイジタートルかー、分かったよ」
「馬車を用意しておりますのですぐにご案内致します、報酬の方は……」
「お任せするよ、ギルドは払いはいいからね」
外に出ると高速移動用の馬車が停まっていたのでウィルはそれに飛び乗ると馬車はすぐに南門へ向かう
レイジタートルは中級中位の巨大な魔物である、見た目は少し足の長い亀といった風情だがその大きさは3階建ての建物に匹敵し、伸びている足は銀級の冒険者でも傷つけるのは容易ではない堅牢な甲羅と同様の装甲を纏っている
普段は大人しいが事故であれなんであれ自分に危害を加えたものを許さず、相手を踏みつぶすまで怒り狂ったように追いかける習性がある
今回はダンジョン内のレイジタートルが甲羅に籠って休んでいるところに冒険者が危害を加えてしまったと現地の調査員から報告があったと言われている
馬ほどには早くはないので王都南のダンジョンに潜れるほどの冒険者では逃げるのは難しくないが、特殊な器官で対象を捉え続け追いかけることからこうして王都や街まで迫ってきてしまう厄介な魔物でもある
こうしたレイジタートルによる被害は深刻で、適切に対処が出来ない場合は危害を加えたもの全てに対して攻撃を続け街や村を壊滅させることもあるのだ
主な対処法は比較的無防備な頭を狙うか、防御を貫いて攻撃を行うかのどちらかになる、多くの場合は爆薬や魔術師複数人による攻撃によって転倒させた上で頭を狙い討伐という形になるが、その際には銀級冒険者パーティが5組は必要とされる
長い時を過ごした個体は魔法に耐性のある障壁を張ることで転倒を防ぐなど、そもそも戦うことが間違いとも言われている魔物として知られている
王都の南門へ到着すると追いかけられていたであろう16~18歳ほどの若い銅級冒険者が自分が門まで中級中位の魔物を誘き寄せいるのだと説明されて真っ青な顔をしていた
「彼は確か……」
「お知り合いですか?」
「ううん、ちょっと前に宿屋の酒場で絡んできた人だね」
田舎の冒険者ギルドからやって来たのであろう若者はそこのギルドでは最年少で銅級へと昇格して調子に乗っていた、王都でも期待の新人と言われ順調な冒険者生活を送るのであろうと妄想していたところにウィルの様な小さな子供が銀級として持て囃されている事が気に食わなかった様で絡んでしまったのだ
当然ウィルは相手にしなかった、その態度が更に彼を激昂させ罵詈雑言を浴びせてきたがその後はお前みたいなのが銀級になれるってことは王都も大したことがねえんだな!と啖呵を切って出ていってしまった
幹部の男性は大きなため息をついた、若い冒険者や市民に多いのが冒険者ランクの決定の重さに対しての認識の甘さだ、それが王都にも蔓延っているのかと呆れていた
確かに鉄級以下の等級は鍛錬や経験で上がり続けるが、銀ましてや金などはそんなモノでなれるようなものではないのだ
常識を超えて、我々では認識できないレベルの才能こそが危険なダンジョンを攻略し、数多くの魔物を倒し民を守るのに相応しいと考えている彼からすれば齢12にしてソロの冒険者として銀級の証を持つウィルに田舎の銅級風情が喧嘩を売るという行為そのものに頭を痛める、その上現状がこれだ
「結果を急いてダンジョンに潜った挙げ句今に至ると……まあこれから力と言うものを知ってもらうとしますが」
幹部の男性は周囲の衛兵に声をかけると座り込んでいる冒険者の青年を拘束し、近くの馬車の檻へと入れる
青年は泣きそうな顔をしているが近くにウィルを見かけたのか堪えたようだ
「なあ!王都に魔物を故意に誘き寄せるのは犯罪なのは知ってるけどよ、王都そのものに被害が出ない限り俺は罪に問われないはずだぞ!!銀級が対処できるんだろ!!」
魔物から逃げて街や村に逃げ込むのは、その場所へ被害が出なかった場合に関しては罪に問われないように決められている、それは冒険者に避難場所を作るという意味合いもあるが危険な魔物の発生時に即座に情報を得るためでもある
また、小さな村や町でもない限りはウィルのような銀級の滞在者がいるため実際に罪に問われる場合も少ない
「その通りです、ご安心下さい……ですが今回の相手はレイジタートルですので、ご協力いただきましょうか」
「協力ったって……魔法も剣も効かなかったんだぞ!!」
騒ぐ青年を無視しウィルを含めて何人かの衛兵が馬車に乗り込むと南門が開き青年を入れた檻を載せて王都の外へ向かう、その方角は南のダンジョン、レイジタートルが向かってくる方面である
青年はギョッとした、今馬車にいるのも銀級の子供一人以外は普通の衛兵で門の内側に逃げ込んでから説明された中級中位の魔物に対峙するには余りにも数が少なすぎる
王都の頑丈な門や設備を使って迎撃する形になるものだと思っていたのだ
「お、おい!?まさか俺を犠牲にして終わりにしようってわけじゃねえよな!!数が少なすぎるだろ!!」
「僕がいるから大丈夫だよ」
「銀級一人で何が出来るんだよ!?アイツには魔法も効かなかったんだぞ!!」
運が悪いことに青年が怒らせてしまったレイジタートルは長く生きていた個体らしくそう堅牢な魔法障壁の前には魔法剣士の青年では魔法が一切通じず、銅級程度で手に入る剣では刃を痛めるだけに終わったので逃げるしかなかったのだ
ウィルを見るに明らかに剣士のそれではない体躯と装備に青年は疑念がぬぐえない、明らかにあの巨大なレイジタートルを一人で倒せるほどの冒険者に今になっても見えないのだ
レイジタートルは自分を殺せばその場で大人しくなるらしいので、それならば多くの銀級を投入するよりもこうして犠牲にしてしまった方が話しは早い
王都としては対処に銀級を派遣したが護衛対象が死んでしまいレイジタートルは沈静化したと報告をあげるつもりなのではなかろうか
「レイジタートルの魔法障壁は確かに並みの魔術師では突破は困難でしょう、障壁持ちとなれば中級上位ともなりえますな」
「僕としては上級でも出てきてくれると嬉しいんだけど……」
青年の耳には呑気に談笑する二人の声は届かない
今回の個体はギルドや街を囲う壁ほどの高さのある巨大な個体であった、森を越えてその巨体を確認することが出来るほどで、仮に王都の門で迎撃しようものなら重厚な壁でさえも崩されてしまっていただろう
一歩一歩踏み出す度に地面から振動が伝わってくる、青年は一層青白くなった
(俺が何をしたっていうんだ……)
確かに中級の魔物を倒す自信はあった、魔法剣士という珍しいスタイルを使いこなし下級中位だって難なく倒すことが出来るようになって生まれた町のギルドに認められて最速で銅級まで辿り着いたんだ
今回だってレイジタートルを倒そうとしたわけじゃない、もっと手頃な中級下位の魔物、例えばリビングアーマー辺りと戦うつもりだった
ただただイラついて石を蹴飛ばし転がっていった先がレイジタートルの甲羅だっただけでどうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか
青年が絶望しているとウィルは檻に入った青年目掛けて巨体に似合わぬ速度で進行を続けるレイジタートルへ馬車に置いていた愛仗を手に取り向かい合う
周囲の魔力を吸収する際ウィルの纏う法衣含まれる魔物の素材が金色に発光し始め……一瞬目の前が光ったかと思うと全てが終わっていた
目の前に確かに存在していた巨大なレイジタートルは首があったであろう場所から向こうの風景がトンネルのように見通せるような状態で事切れていた
徐々に重力に負けて崩れていく巨体を尻目に幹部の男性はパチパチと控えめな拍手をした
ウィルの魔法は、言ってしまえば単発で発射されるレーザーのようなものだ
法衣により吸収した周囲の魔力と自分の魔力を収束し発射するという限りなくシンプルな魔法だが、特筆すべきは発射速度とその威力である
レイジタートルの展開する魔法障壁は通常の銀級魔法使いですら突破は難しく、高火力の魔法が使える術者を数人で全力攻撃を行ってギリギリ破壊できるかどうかという堅牢さだが、ウィルの膨大な魔力と周辺から吸収した魔力によりそれですら一撃で吹き飛ばし本体を貫くほどの威力と、数秒もかからず無詠唱で発射される上に視認ができないほどの速度を持っている為回避が不可能という不条理さを併せ持っている
故にウィルは並みの銀級ではなく、冒険者ギルドとしては史上最年少の金級への最有力候補で千年に一度の大魔導士であり、上級の魔物が現れるようなことがあればウィルがこれを即討伐し金級へと昇格することが約束されている為に他の銀級とは一線を画した冒険者である
一点問題があるとすればウィルは純粋な魔法使いで子供なので体力もない上にこの魔法しか使えない為に他の冒険者とパーティを組んでダンジョンに潜ることも出来ず、こうして王都へ迫る中級の魔物を討伐する以外を行ったことが無いのだ
その為に冒険者からの批判の色が強く、巷では「冒険者モドキ」等と蔑称されることがあるのだが、銀級以上に課せられる防衛任務をこなすのに当たってはそのような批判は当然無視されるし評価に影響することもない
「お見事、流石はヴアルガンド様」
「ありがとう、素材の回収は大変そうだね」
「ここまで大物になると係りの者たちは苦労するとは思いますね、ただ有用な装備を作ることが出来るでしょう、多くの冒険者たちが待ち望んでおります」
銀級が街の依頼で中級の魔物を討伐した際には魔物の素材は冒険者ギルドが管理することとなっており素材の販売などで利益を得る、その際に出た売り上げの一部は依頼料とは別に対処に当たった冒険者へ支払われるのだ
淡々と事務的な言葉を交わしていく二人や慣れたもんだと驚くことがない衛兵達に青年は恐怖した
自分は別に生け贄でも手伝いでもなく、レイジタートルが進路を外れないためだけに連れてこられたのだと、全員の態度からなんとなく察することが出来たのだ
幹部の男性が青年の方へ向く
「これが銀級ですよ、ヴアルガンド様の場合は金も見えているレベルではありますがね、どうです?銀級にはなれそうですか?」
数日後、青年は地元のギルドへと逃げるように去っていった
これからは心を入れ替えてそれなりの冒険者として活躍をすることだろうと、幹部の男性は微笑むのであった
「いやー!出ちまったよ中級の魔物が!!」
少し嬉しそうにセイワさんがお店にやって来ました
今日はお客さんというわけではなくて外へ向かう途中に門番さんに止められてしまったそうです
中級の魔物といえば銀級の冒険者パーティが装備を整えた上で対処に当たる強敵です
シャボン草原は下級の魔物しか普段はいませんがダンジョンや遠方からやって来ることが稀にあります
「草原には立ち入り禁止、逆側の狩り場も魔物の影響範囲として立ち入り制限が入ったわ、まあ生活費位はギルドからも出るんだけどね」
「討伐が終わったらしばらくは冒険者はソワソワするだろうね、中級の魔物の素材は珍しいし防具や武器の素材にもなるからね」
強力な魔物な分その素材を使った装備も高性能なものになるそうです
中級上位や上級の魔物は滅多なことでは現れずその上討伐できるかも怪しいらしいのですがその素材を使った装備や道具には不思議な力が宿っているそうで、王都にはいくつかのそういった装備が国宝として保管されているとトップおばさんに教えてもらったことがあります
「アタシが見たことあるのは浄化の力を持った籠手でね、触れた水や空気の穢れを取り除く力があったよ、神の御技とかなんとかで教会が保有してるね」
「金級の1人、竜王って呼ばれてるのは全身の装備が竜属の素材で作られてるって話しね、他の金級も似たような装備を持ってるでしょうね」
上位の冒険者さんは比例して装備も立派だそうで、一部の冒険者さん達の間では不満の声が上がることが多いんだとシャープさんが教えてくれました
例えば誰も探索してないダンジョンですごく強い魔道具、何でも切れる剣とか強力な使い魔として使役できるタイプの魔道具を拾った人のように実力以上に等級が上がっているのではないかとのこと
装備が強くなるにつれて個人の実力よりも装備の力が上回っているだけではないかという身体一つで魔物と相対する誇りを大事にする一部の人達がそういった声を上げています
「俺達からすればすげえ道具を使いこなすのも実力だから気にならないけどな、生身一つで戦うのが冒険者って訳でもねえし」
「生身で中級の魔物とか倒したらそれはもう人間じゃないわよ」
そんなわけで特にセイワさんは今までの貯金を崩してでも中級の魔物の素材を買おうか悩んでいるそうです
装備を整えるのも冒険者の務めなのです
「今回出現した魔物はなんだい?ダンジョンから現れたならセイバータイガー辺りかい?倒せたら利益は凄いことになるだろうねぇ」
「流石シャープさんですね、セイバータイガーです」
「セイバータイガーの素材を使えば俺の剣もすげえ切れ味になるぜ、ただ高いんだよな!」
「今回は私はパス、魔法杖の媒体なんかがあれば良いんだけどね、毛皮は全身揃えるのなんて到底出来そうもないし」
セイバータイガーとは2m程の体に体内から分泌された物質により剣のように硬化した太く鋭い毛が何本も生えている魔物でその毛に人が生身で触れるとスパッと切れてしまう恐ろしい相手です
分泌される体液は強力な武器を作るのに重宝され、固まっている毛も一度粉々にすることで武器へ再利用されます
毛皮も自分の毛で傷付かない程に頑丈で並みの装備では傷つけることもできないんだとか
ダンジョンからはそれなりに多くの魔物が出てくることがありますが分布は一定らしくハイアールにやって来る中級は数種類程で、セイバータイガーの割合は多いんだそうです
「一般的には鈍器で頭を叩くのが楽な対処法だね、体は刃物は通らないし」
「意外に水に濡れると硬質化した部分は柔らかくなるからそうなるとでっかい獣と一緒らしいわ……とは言っても中級の魔物だからそもそもその隙を作る前に鉄級冒険者辺りだとバラバラにされるでしょうけど」
「対処法が有名だからこそ被害の多い魔物でもあるね、中級は伊達じゃないってわけ」
倒せた際に自分達の装備を強力に出来ると鉄級冒険者さん達が挑みかかって餌食にされる場合が多いんだそうです、首尾よく水で濡らすことが出来ても倒すことが出来ずに犠牲になった人が多い魔物と言われています
そういった事を防ぐためにこうして出入りを禁止されるのです
「今回は草原で遠距離から発見した銅級がギルドへ報告して被害は今のところ無し、街の銀級パーティ3組と鉄級のベテランで対処に当たるそうよ」
「そういえば門の上に登れるんだったよな?近くで戦ってたら見られるんじゃねえか?」
そういえば私も実際に冒険者さんが戦っているところを見たことが無いのです
そんなことを考えているとシャープさんが「暇だしアタシ達も見に行くかい?」とお店を休憩にしてくれました
私がハイアールに来るときにも見ることはありましたが大きな町の門はかなり立派です
ハイアールは住民の増加に伴って地区をを増やしていく関係上、防壁がいくつも街中にあって古い地区の防壁になるほど頑丈で高さもあってかなり立派です
私たちの住む第7地区の防壁は比較的新しいものですが、それでも大抵の魔物や外敵からの攻撃を防ぐ程には大きな壁になります
「門から外を見ることは許可されている、異常や中級の魔物を発見したら報告するように!とは言うが既に戦闘に入ったと報告を受けている、早く登ったほうがいいぞ」
門番さんは意外にも500AGで門の上へ登らせてくれました、セイバータイガーは高いところへは登れないので規制されていないんだそうです
門の上には私たちと同じように見学に来ている家族の方や冒険者の方達がいます、お弁当やお菓子を販売する人もいるのでまるでお祭りの様です
「もう戦闘にはいってるな、仕事がはええ……」
「ちょっと遠いね、はいレンタルの双眼鏡」
門の上に上がると双眼鏡貸してもらえます、こうした商売も街では盛んに行われているのです、貸し出された双眼鏡は少し性能は低いですが戦闘を行っている人たちを見るのには苦労しません
1パーティ5人までの決まりがあって戦闘に参加してるのは20名になります、その20名が大きな魔物を取り囲むように陣形を作っています
それぞれのパーティの先頭に盾を持った前衛の方と攻撃をする人がいて後方で魔法使いの方が水魔法を使うようです
既に何度か水魔法を直撃させているようでセイバータイガーの毛は濡れて貼りついています
「別々のパーティなのに統率が取れているわね……個々の能力もやっぱり高い」
「アクア!あの地面を滑るように移動してる人いるだろ!!あの人すげえぞ!!」
セイワさんが言う人は上半身は関節部分のプロテクター以外に鎧らしい鎧を付けていませんでしたが両脚はしっかりと守られていて脛部分がローラーになっていました、多分魔道具か中級以上の魔物の素材なのです
正座をするような姿勢になると即座に高速で移動して低い位置からセイバータイガーの脚や懐に飛び込み身体を双剣で切り裂いています
獣に対して低い位置から攻撃するので当然爪などで反撃されるのですが、鎧を付けてない上半身を地面ギリギリに倒したり突然急停止したりしてそれを回避して翻弄しながらもしっかりと攻撃を加えています
傷ついて退路を求めたセイバータイガーが魔法使いの方達を狙ってがむしゃらに突進を仕掛けますが大きな盾を持った男の人がなんと一人でその体当たりを受けきりました
セイワさんが興奮して声をあげます
「うお!?大盾とはいえあの巨体を受けきるとかまじか!どんな身体してんだよ!?」
「あの人たちは銀級になりそうな鉄級パーティだっけ?あの時の奥さんの旦那さんとかいるんじゃない?中級の魔物ともやりあえそうだし今回の件で銀級パーティとして認められそうだね」
「おー、それなら応援しないとなのです!頑張ってくださーい!!」
冒険者さん達の戦闘を見るのは初めてなのですが、こうやって見るとみんな同じ人間かどうか怪しい動きをしているのです
剣の一振りで数カ所に傷を付けているような人もいれば自分の身長ほどもある剣を両手に一本ずつ持って双剣のように振り回す人、腕に付けられた小さな盾だけで巨大な爪や牙を受け流す人、目で追うよりも速く動く人等など、20名全員が私達とは比べ物にならない力を持っているのが分かります
戦闘はさほど長くは続きませんでした
私達ものんびりとお弁当を食べたりしながらその様子を眺めています
致命傷はなんとか避け続けていたセイバータイガーも20名からの攻撃には耐えることが出来ずに最後には力尽きる形で地面に伏すことになりました
冒険者さん側には被害らしい被害もなく、お互いに健闘を称えあっています
安全が確認されて冒険者さんたちが発煙筒を焚くと街から冒険者ギルドの職員さんたちが倒れたセイバータイガーを運ぶための馬車で向かっていきました
「というわけであれがハイアールの防衛戦力だね、どうだい?」
「冒険者さん達って凄いのですね」
少しだけ言ってしまえばおとぎ話に出てくるような冒険者さん以外はハンターや探検家くらいに思っていましたが、ああして人を守る立派なお仕事もしているのです
「でもどうして冒険者って括りなんでしょう?街の防衛役として衛兵さんとして雇う方がいいと思うのですが」
「衛兵や王都の近衛兵に転職する人は一部はいるけどね、それ以外は利権の問題も色々あるっぽいかな」
「別に冒険者は人を守りたくて冒険者をやってるわけでもないからよ、悪く言っちゃえば冒険者は自由主義なのよね、街の防衛しか出来ない衛兵は性に合わないって人は多いわね、後は遥か昔の勇者様が冒険者だったって名残もあるかしら」
意外とドライな関係なのです、後は拠点にしていた街で家庭を持った人は家族を自分の手で守る為に衛兵になることが多いんだそうです
勇者様と言えば知らない人はいないと言っても過言ではない伝説上の存在です、昔話でいっぱい出てきます
冒険者でありながらも旅の道すがら多くの人々を助け強大な魔物を打ち倒し莫大な利益と平和を大陸に与えました
勇者誕生以降その等級を持った者が居ないとされる白金級の冒険者として知られています
白金級と言われるようになった最大の要因として当時魔王と呼ばれた上級上位の存在を倒したそうです、これは色々なパターンのお話が各地に伝えられています
そうしたおとぎ話の勇者様を目指して冒険者になる人たちは多いのです
「しかしセイバータイガーの素材がこれから売られるとなると楽しみだな!」
「貯金が足りなくても知らないわよ、借金は止めてよね」
二人はこれから冒険者ギルドに向かってセイバータイガーの素材の買い付けに行くそうです
セイバータイガーが討伐されたので明日には門の外での活動も再開できるんだとシャープさんが教えてくれました
「一日で解決して良かったのです」
「今回はかなり早い方だね、普通なら発見に数日かかるもんだけど」
多分街へ逃げる冒険者さん達を追いかけてきていて近くにいたんじゃないかとのこと
それにしてもすぐ解決して良かったのです、これで明日からは冒険者さん達が服を持ってきてくれます、強い魔物が出たって私たちの日常に変わりはないのです
というわけで大分遅くなってしまいましたが7話の投稿です、オチも進展もないですけどハイアールの日常です
世界的に冒険者は強いんだなっていう事を感じてもらえればいいんですけど碌な戦闘シーンが書けず……
アクアが突然戦闘をするようなことは今のところないのでご安心ください
少しずつブックマークが増えているようで嬉しいです、励みになります
更新頻度は流石に今回の様なことは続かないと思いますので2日くらいで上げる予定です