3話 お店の名前は錬金洗濯アルケミ屋です!
前回のアクアちゃん
石級は本当に世間の目が厳しかったよ
お洗濯錬金術はお金になるよ
シャープさんは私生活ぐうたらなのかもしれないのです…
※ジャンルが「恋愛」になっていたのを「ハイファンタジー」に修正しました
単純にミスです!!恋愛要素はちょこちょこ入れると思いますけど主題は錬金術使う日常です
ハイアールに到着して三日目の朝です
村にいたときはお日様が登り切ってからみんな外に出ていましたけど大きな町で冒険者さんもいるところは早朝からそれなりに喧騒が聞こえてきていました
朝ごはんは食べない派だというシャープさんなので私はパンと昨日の残りのスープをいただいて商会のお掃除をします
シャープさんが酔って荒らした部分は先日の内にある程度片づけましたがホコリがそこかしこに積もっています
ホコリや床の汚れを取る錬金術もあればいいんですけど、そんなに上手い話はないので雑巾で水ぶきです
今日からはお客さんがくるかもしれないので入り口と商会のカウンターまでは念入りに綺麗に……そういえばこの商会をどうやって洗濯屋さんにするのでしょうか
色々置いてあったであろう棚は今は何も置いていませんし、私が錬金術を使うのであれば棚もテーブルも必要ありません
人通り目に付く部分を綺麗にした後は……意外にもやることがありません
シャープさんは寝てしまっているので少し時間が空いています、ちょっと外を歩いてみましょうか
ハイアールは石造りの建物が多く、隙間隙間に木製の建築の入り混じったような場所が多いです。増えていく住民に対応していく為にいっぱい建てなきゃいけないみたいです
シャープさんや私が住んでいるのは第7地区という比較的新しく移住してきた住民の多い区画だそうで、冒険者や外から移住してきた人が大半を占めているって昨日の夕飯の時にシャープさんが教えてくれました
各地区に代表がいるらしく、基本的には領主に対しての陳情は地区ごとに代表が一度受けてから行われるそうです。
「あっ!昨日の錬金術師の子!!」
「セイワ!指を刺さないの!!おはよう、昨日は凄かったわねあなた」
ふと声が掛かったので振り返るとプレートアーマーと脛当てをつけた男女の冒険者の方でした、二人とも確かイネスさんの宿にいた冒険者の人です
背中にはリュックを背負っています、二人とも銅級の冒険者さんですね
「先日は挨拶してませんでしたね。初めましてアクアといいます」
「俺さ、錬金術っていったらもっと地味で規模の小さいやつをイメージしてたんだけどさ、君みたいな小さな子があんなこと出来るなんて凄いんだな!!」
「いやいや、普通の錬金術師はあんなこと出来ないわよ、村にいた鉄級の錬金術師だって手のひら位の大きさの作業空間しか作れなかったもの、きっとこの子天才の銀級か何かよ」
「銀級!?こんな小さな子が!?」
石級なんです……と言ってしまってもいいのでしょうか
イネスさんも自分から石級という必要がないとは言ってましたし、今までの反応を見るに商売をするにあたって石級と言わない方がお客さんの反応はいいのかもしれません
でも銀級だと思われて良いはずがありませんし、期待を裏切る形に後でなっちゃうのも嫌です
「あの、実は石級で」
「嘘嘘、良いのよ私たち冒険者は年功序列なんてないし、実力社会だもの」
「王都には12歳の銀級冒険者がいるらしいぜ!世界は広いよな」
「いやいや、本当なんです、これが等級票なのです」
いたたまれなくなって首から下げた石の等級票を見せて試験の内容と結果を伝えました
自己紹介も済ませました、お兄さんの名前はセイワさん、お姉さんはエコノさんです
エコノさんは私の話を聞いて悲しそうな顔をします
「錬金術ギルドは何をしてるのかしらね……いや錬金術ギルドだからこそか」
「どういうことだ」
「一部特化の人間に銀とか渡せるのは商業ギルドか冒険者ギルドだけってこと、錬金術は行う範囲が広いから今の評価基準だとこの子は作業空間が広くて汚れが落とせるだけ、それじゃあ錬金術師とは言えないから石級ってこと」
「俺たち冒険者は例えば魔力が馬鹿高くて一発で魔物倒せるならそれ以外がどんなにダメでも銀にだってなれるからなー」
冒険者さんの評価基準は大分違うそうです、石級でも仕事自体は可能と判断されるのでなんと食べるのには困らないくらいにお仕事はあるんだそうです
「石とかの仕事だと薬草集めとか狩りがメインだけどな、パーティで魔物を倒せれば素材を売ることも出来るし、ギルド側で戦闘能力が認められて銅にもなれるぞ」
「実力主義ってやつね、倒せる魔物の幅が増えれば勝手に等級も上がるのよ」
「いっぱい洗濯物を綺麗にしても石級の私とは大違いですね」
錬金術師以外のギルドでも聞きましたが錬金術師は一般的に全ての作業を一人でこなすことが前提としてあるようです
その為錬金術師については、何かに特化しているという評判があっても、それ以外の技術も伴って高い等級を持つ人しかいないんだとか
錬金術界は大変です
「ま、私達冒険者からすれば仕事が出来さえすれば石級だなんて気にしないわよ」
「そうそう、俺たちも今日の狩りが終わったら店に寄らせてもらうぜ、結構洗濯物が溜まっててよ」
バイバーイとエコノさんとセイワさんは町の門の方向へ歩いていきました
冒険者さん達は明るい人が多いんでしょうか、イメージだと怖い人が多かったのです
先日の市場は既に開いていて、朝から色々なものが売られています
お昼と夕飯の食材も買っておかないとなのです……が、露店の立ち並ぶ一角に錬金術師の方がお店を構えているのを見つけました
どうやら鉄級の方らしく、お店の看板には「鉄級錬金術師、格安で各種作業請け負います」と書かれています
他の錬金術師さんのお仕事を見かけるのは初めてなので私は露店の横でそれを見させてもらう事にしました、男性の錬金術師さんでどうやら冒険者さん向けの商売をしているようです
薬草や薬瓶を持った冒険者さんが数人並んでいます
「今日はポーションを作ってもらえないか?材料はここにある」
「あいよ、材料持ち込みでその量なら1000AGで受けるよ」
お金と素材を受け取るとその錬金術師さんは30cm四方の藍色の作業空間を作り
薬草と水、反応剤を作業空間で混ぜていきます
私はポーションに詳しくないので今作っているポーションがどういうものかは分かりません……未熟なのです
冒険者さんという事は傷薬か体力回復に使うのだと思います
作業空間の中の薬草はまずは葉と茎の部分に分解され、その後葉の部分を繊維と何かよくわからない物に分解されました、その過程で出た不要な部分は作業空間の下に置かれた屑箱へ落ちていきます
どうやらこの薬草は葉っぱの中にある成分しか利用しないようです
分解の後に成分部分が水と反応剤と合わさって一度沸騰直前まで熱せられた後に冷やされそれが作業空間から薬瓶の中へ流されていきました
作業時間にして1分も掛かっていません、これが鉄級の錬金術師の作業なんだとしっかりと目に焼き付けます
「あいよ、きっかり4本分だね」
「いつもありがとよ、仕事はええもんなアンタ」
「じゃなきゃ朝方に冒険者相手に仕事なんて出来ないからねぇ」
どうやらこの錬金術師さんはお仕事が早いのだそうです
次から次へと錬金術師さんは依頼を受けたものを作っていきます、基本的にはポーションが多かったですが、中にはスライムを分解して粘着剤を作ってもらっている人もいました
確かスライムは水分を抜いた後に乾燥したものを粉末状にし、少量の水で溶かすことで粘着剤になります
30人ほど依頼をこなした頃にまだ並んでる人がいましたが錬金術師さんは断ってお店を閉じてしまいました
「お嬢ちゃんそんなに熱心に見つめちゃって錬金術が珍しいかい?」
「あっいえ、その、すごいなぁと思いまして」
チャリ…と恥ずかしいですが等級票を見せると錬金術師さんはすぐ仕舞うようにジェスチャーで教えてくれました
イネスさんの教えを守れない私です……
「まだ若いんだから石級でも恥ずかしくないさ、ただ市場で見せるのはいただけないね、お嬢ちゃんもこれから仕事を受け始めるって時に将来のお客さんがそんなもん見たら来なくなっちまう」
「なるほど……」
「鉄級って言っても私も大したもんじゃないよ、作業が早いから簡単な作業を依頼してくる冒険者相手に仕事してるだけさ、ろくに派閥にも所属してないしね」
派閥…?
「ああ、外から来た子かい?第7地区に住んでるならそれもそうか。派閥っていうのは錬金術における流派みたいなもんさ、これが中々難儀でね」
「難儀?」
「分解の手順、混ぜ合わせの比率、変化の温度調整なんかが派閥ごとに違ったり作業に作法があったり様々さ、それぞれに得意分野や進んだ研究もあるんだが……お互い面子があるのか中々に歩み寄ろうという姿勢がない。ただ顧客の中にはこの派閥の支持層もそれなりにいてね……派閥に属していないと仕事も少なくなるなんてこともあるもんさお嬢さんも気を付けると良い」
錬金術師のおじさんはもっと自由に錬金術を使いたいとのことでこうして露店での商売をしているそうです、一匹狼という人ですね
「お嬢ちゃんみたいな若い子が錬金術師として大成できるような環境も作らないといけないんだけどどうにも派閥や世間が許してくれない、王都の分業制も一般に認められるようになればもう少し多くの錬金術師が仕事に就けるのだがね」
はあっとおじさんは深いため息をついてお店を畳んじゃいます
「こんな錬金術で良ければいつでも見に来るといいよ」
おじさんはそういうと人ごみに紛れてしまいました
そろそろ私もお店に戻りましょう
商会に帰るとシャープさんが眠そうにカウンターに突っ伏していました
私生活がだらしないのかもしれません
「あー、アクアちゃんちょっと私の事馬鹿にしたね?」
「っ!?いえいえそんなこと!!」
「商人をなめちゃいけないよ、顔を見たらわかるもんさ……いや確かに今の格好は良くなかったね」
シャープさんは姿勢を正してくれました
もう少ししたらお店を開けるかね、と木の立て看板に値段を書いたものを正面の通りにおいて中にも同様の事が書かれたプレートが飾ってありました
「いつの間に……」
「昨日アクアちゃんが市場で買い物してる間に知り合いの家具屋に用意して貰ってたんだよ、お店の内装も近いうちに変えてもらうからね」
流石シャープさんはお仕事が早いのです
「さてと、とっても重要な事を決めなきゃいけないね、お店の名前どうしようか」
「決めてなかったんです?」
「ふっふっふ、実はここにいくつか案があるのさ」
数枚の図面に書かれていたのはお店の看板の絵でした、家具屋さんで注文するときに使うんだそうです、看板のデザインは泡や水をイメージした造形のモノが何点か書かれています
シャープさんって絵が上手いのですね……とっても意外です
しかし問題はそこに書かれていた内容でした
「アクアピカピカクリーニング……アクアちゃんの洗濯屋さん……早い!安い!可愛い!アクアウォッシング……却下で」
「なんで!?」
「名前にセンスが……センスが無いと思うのです!というか何で私の名前を入れるんですか!?」
「だって実際に作業するのアクアちゃんしかいないし…」
……確かにそうなのです…いや納得してはいけません
「今後私みたいな子がいたら従業員が増えたりしませんか?」
「うーん……アクアちゃんみたいな子はそうそう出てこないと思うんだけど、確かにアクアちゃん推ししすぎてるか、どんな名前がいい?」
名前……名前ですか、言った手前いい感じの名前がいいのです
錬金術でお洗濯をしているのがはっきりとわかったほうが良いのかもしれません
錬金術は言い方を変えるとアルケミーですが、アルケミって可愛い響きなのです
「錬金洗濯アルケミ屋……なんてどうです?」
「アルケミ屋かー…可愛さが足りない気がするんだよね」
「前の案よりは大分マシなのです…」
「アクアちゃんも言うようになったね……お姉ちゃん悲しいよ」
嘘泣きをするシャープさんを押しのけ私たちのお店はアルケミ屋として活動していくことになりました
看板はまだありませんが、アルケミ屋は無事に開業となりました
オープンして小一時間程経ちましたが客足はさっぱりです
「お客さん……くるんですかね」
「アクアちゃん、新規事業で初日からわーって人がくるわけがないさ」
「うう…先日はいっぱいお仕事出来たので勘違いしてました」
正確にはちょっとだけ足を止めてくれる人はいました
錬金術で洗濯?という疑問は結構強いみたいで立て看板を少し眺めてすぐにいなくなってしまいましたが
思えばまずはお店の事を知ってもらう必要があります、洗濯物を常に持って歩いてる方はいないのでまずお店の立て看板を見たうえで持って来ないといけません、とてもじゃないけど当日中に実行する人は少ないのでしょう
シャープさんは心配することはないよとちょっと気楽に構えています
「本当に不便な井戸事情だからね、奥様当たりのネットワークに捕まればそれなりに需要もあるさ」
「そわそわしちゃいます」
「アタシも商売始めたころはそんな感じだったよ、懐かしいねえ」
しばらくカウンターでお茶でも飲みながらのんびりしているとゴロゴロと荷車を押す音が聞こえてきました
「こんにちはー、シャープ、アクアちゃん来たわよー」
「イネスさんなのです!いらっしゃいませー!!」
イネスさんが私服姿でやってきました……後ろの荷車の服たちはいったい?
服の山は二つあって、イネスさんのものと思われる綺麗な服がいくつかと、泥によって汚れたであろう男物のシャツや下着の山あります、後はちょっと大きめの箱です
「昨日言ってた私の服と……これはどうなのかしら?冒険者達の服40枚よ」
「40!?でもなんでイネスさんが?」
「マスターが宿で冒険者の服をこっちに持っていくってサービスを始めてね、今回はその最初のサービスってやつよ。そしたらあいつら10枚で4000AGになるのに目を付けて自分たちでまとめて服を出してきたのよー!迷惑だったらこっちから注意しておくけど?」
まあウチみたいなそこそこ安い宿に泊まる冒険者だったらそれくらいケチなのも分かってたけどさ、とイネスさんは笑っています
「いや、まとめて出すならそれはそれでいいさ。イネスのところも儲けは出るんだろ?」
「まあお小遣いが貰える程度には、今後は他の子が持ってくることもあると思うけど」
「大口の顧客が増えたようなもんさ、ほらアクアちゃんお仕事だよ!」
「わーい!!」
作業空間をお店の広い場所にバーッと展開して荷車から服を入れてもらいます、気分的にイネスさんは冒険者さんの服と一緒には洗わないでほしいとのことなのでまずは冒険者さんの服からです
積み込まれた服の山からズズズっと汚れが分解されて分離します
「あ!そうだアクアちゃん、汚れはこの箱に入れてもらえる?」
イネスさんは荷車に積んでいた箱をすぐ近くにおいてくれました
「いやね、どれくらい綺麗になってどれだけ汚れを溜め込んでたかこれを見せればあいつらも満足するし結構な頻度で依頼を出してくると思うのよ」
「ナイスアイデアだねイネス、デモンストレーションとしては効果がありそうだよ」
「分かりました、うんしょっと」
作業空間を動かすときは作業空間に入っている物体の分だけ重くなりますが、箱を持つというよりは重さそのものを扱う感じなので持ちにくいとか重さが片寄るとかいう事がありません
服40着と汚れの重さは私だとギリギリ持ち上がるくらいでこれ以上は扱いが難しいです
そういえば今日錬金術を見せてくれたおじさんは作業空間を専用の台の上に載せて、その台に空いた穴からポーションを瓶に入れていました、そういうのもあったほうが良いかもしれません
ダバダバと箱の中に汚れを落とすと……凄まじい匂いが立ち込めます
「蓋を閉めるわ!想像以上に臭いわね…」
「汗と土と魔物や動物の血と……ちょっと口にできないような汚れ…カオスだねこりゃ」
「純粋な汚れそのものなのです……鼻が曲がるのです…」
臭いものには蓋をしましょうということでイネスさんが幸いにも気密性の高い箱を持ってきてくれていたので難を逃れました
しかし混沌と化した汚れが横が透明になった箱から分かります
「冒険者たちに見せて服を洗わせる習慣を身に着けさせるには良い道具になるかもね」
「こんな匂いのするのを纏ってる人はお断りしたいのです」
鼻を摘まんでいるとシャープさんが近寄ってきます
「……アクアちゃん?私の匂いはどう?」
「?」
どうもこうもないです、香水を含んだいい匂いがしますけどそれがどうかしたのでしょうか?
イネスさんは洗った服と自分が着替えてる服を交換してさらに洗濯した後宿屋に帰っていきました、お値段2万AG程になります
イネスさんの服はあれで全部だというとシャープさんが嘘でしょ…みたいなリアクションをしていましたがシャープさんの服の量が異常なのです
錬金術だと洗濯物が濡れてない状態で綺麗になるのでセールスポイントになると思います
雨の日なんかは良いかもしれませんが……雨の日だと持って帰るとき濡れちゃいますね
後は問題として私の錬金術では濡れているものを乾かすことが出来ないのです
水分を布から全部抜いてしまうと大変なことになってしまいます、普通の錬金術師さんなら変化でそういった事も出来るはずなのです
その後も人の流れは一時的にお店の前で止まるものの、中々お客さんは来ませんでしたが
一人若い奥様が酷く疲れた顔をしてやってきました
「あの……お洗濯をしてくれるというのは本当でしょうか?」
「そうさね、書いてある通りすぐに綺麗に洗濯できるよ、その日のうちに持ち帰れるさ」
すぐに綺麗になるという部分で一瞬ぱぁっと表情が明るくなった奥様ですが、その後その表情はすぐに暗くなります
「あの……例えば我が家に来てもらってお洗濯してもらうことは…この一回だけでいいので」
「事情があるのかい?」
「家庭の事情を持ち出してしまって申し訳ないのですが……」
奥様が言うには現在乳離れしたばかりの子も含めお子さんが5人いること、大変子だくさんなのです
しかし日々育児に追われていく中、大人数の服をもって井戸や川で満足に全てを洗濯することも出来ず、汚れもほどほどに残ってしまうことの繰り返し
それでも外で遊んで汚れて帰ってくる子供たちを叱るに叱れず洗濯物がそろそろ限界に近いそうです、このまま取れる手段は服を新しく買う事しかないとのこと
普通のクリーニング屋さんに頼んでは数日かかる上に持ち込み持ち帰りが大前提になってしまいます、そこで私たちのお店を見つけて見たもののって感じです
「シャープさん、私は構わないのですけど……」
「うーむ、一度だけってサービスをすると今後は奥様だけで済まない場合があるからねぇ…」
「でも業務時間外だったらどうです?」
「それも却下、業務時間内で利益を上げてこその商売さ。まあ大変そうなのは見てわかるしね、商売じゃなくて人助けってことで一つ請け負うかね」
「あ…ありがとうございます!ありがとうございます!」
へなへなとその場に崩れてしまった奥様を見て、これは日ごろから大変な思いをしているのだろうと想像がついてしまいます
私はこの能力があったので洗濯物で困ったことはありませんが、奥様の家では苦労して毎日毎日洗っても洗っても汚れた服の山があるのだと思うと気が休まらないのです
「料金はアクアちゃんにそのまま払ってもらうよ、ウチの売り上げではなくね」
「え!?」
「まあまあいいじゃないか、これは錬金術師としてのアクアちゃん個人のお仕事さ、そうでないと今後は断れないからね」
建前として、お店のサービスではないという事は外せないとのこと
そうでないと前あの人はやってもらってたとかそういう文句が増えてしまうんだとか
「報酬ももちろんアクアちゃん個人のものさ、料金は変えないでおくよ。代わりと言っちゃあなんだけど奥様にはウチの宣伝を奥様仲間にしてもらおうかな」
「……お恥ずかしながら大分わが子の服は汚いもので、それが綺麗になったら宣伝するまでもなく他のお母さんたちは興味津々に聞いてくると思います」
お洗濯事情が大変なハイアールらしい背景が見えてきました
「よっしゃ決まりだね!日が暮れた辺りでアクアちゃんとアタシが向かうから住所だけここに書いておいて、他の奥様方に時間外労働について言ったらダメだよ」
奥様は何度も何度もお辞儀をしてお店を後にします、人に求められるのは気持ちがいいのです
やることはお洗濯で変わりはありませんが、私が錬金術師としてのお仕事です
気合い入れていくのです!!
その後陽が沈む少し前にセイワさんとエコノさんが来てくれました
二人はイネスさんがサービスを始める前に出発してしまったとのことであの山の中に洗濯物を入れ損ねたとのことですが、普通に持ってきてくれました
「女物の下着とかコイツと同じ部屋だと干せないから助かるわ」
「え…同じ部屋に泊まってるんですか?」
「付き合いの長い冒険者のパーティなんてそんなもんよ、セイワも気にしてないみたいだし……腹立つけど」
おっと……これは……
しかし私からは言う事は無いのです、大人には大人の付き合いがあります
まずはセイワさんとエコノさんの普通の服をまとめて洗濯して、そのあとは商会の中の部屋で下着を洗ってしまいます……大胆な大人の下着もありました
エコノさんも中々大きい……私やシャープさんとは比べ物になりません
「うおー!すっげえ綺麗になってる!!」
セイワさんは綺麗になった服を嬉しそうに眺めています
洗濯前は大分茶色になっていた服も元々の麻の色に戻っています
「やっぱり凄いわこれ、シャープさんでしたか、すごい子を見つけましたね」
「アクアちゃんの魅力に気づくとは中々やるね、石級だなんて信じられないでしょ」
胸を張るシャープさん、手元の下着と見比べてしまいましたが悲しくなるだけだったので心にそっと仕舞いました
「錬金術ギルドの規定も古いですね…しかしこうした逸材が人知れず埋まってると思うと悲しいですね」
「石級の錬金術師は大半が仕事が無くて別の仕事で生涯を終えるなんて言われてるけどね、アクアちゃんみたいな特殊なケースの人間がそれなりにいたとは思うよ」
もったいないなーとエコノさんとシャープさんは声をそろえてため息を吐きました
皆さん私の事を過大評価し過ぎなのですが、それでも石級は仕事が無いといわれた初日に比べたら幸せな気持ちでいっぱいになりました
誤字脱字がちょこちょこあるのを読者に直してもらえる機能があるのを知って甘えているあぐにんです
投稿頻度や登校時間にムラがあるのはお仕事の都合もあるので予約掲載機能で朝7時辺りに上げるようにします
取りあえず書くぞーって見切り発車した作品なのでようやく自分の中でキャラクターが動いてきたかなって感じがしてきます