12話 再スタートと始まりと
執筆が捗ったのでアップしようそうしましょう
自分のお話が一体どこへ向かっているのか分からなくなってくる今日この頃
「ほらー!シャープさん起きてください!!」
「う~?ん?あと2時間……」
もぞもぞとシャープさんが布団を被り直します
「ダメなのですー!!今日は大事なお客さんと会うからおめかししないといけないから起こしてって自分で言ったんじゃないですかー!!」
枕元に吊るされているシャープさん専用目覚ましお鍋を棒で叩いてガンガン音を立てます
最近は耐性が出来てきたのかそれでも安らかな寝顔を見せるようになってきてしまいました
「起きてくださいなのですー!!」
これが最近の私たちの日常です
あれからダイグさんの部下の4人はモリスさんの馬車に乗ったのは自分たちだと白状しました、その後モリスさんを拘束後に指定された場所に荷物や馬車毎モリスさんを置いて街へ帰ったとのこと
つまるところ黒幕までの道は途絶えてしまいましたが、それはフィリアさんが頑張って調査してくれているのです
モリスさんの生存はやはり絶望的と見るしかありません……シャープさんはショックは受けましたが、尚の事アルケミ屋を大きくしてみせると息巻いていました
力を付ければ今回の事件の事も掴めるようになるかもしれないんだそうです
「それなのに寝坊するんですからもう!」
「アクアちゃんに起こされるのを楽しんでると言ってほしいね、朝ご飯ありがとー」
「お粗末様なのです」
本日はシャープさんが言うには大事なお客様がやってくるとのことでシャープさんはお化粧したり綺麗な服を着たりする必要があって少し早く起こしました
ご飯を食べ終わった後のシャープさんは普段全く使う事のない化粧台の前に座って意外にも手慣れた手つきで顔を綺麗にしていきます
「わぁ……」
「お?見とれちゃったかな」
「お化粧得意なんですね、凄く綺麗なのです」
「実家にいるときに死ぬほど教えられたからね、商人っていうのはやっぱりある程度見栄えっていうのも大事でさ、こういう上流階級に受けそうな化粧とか失礼のない服とかそりゃ鬼のように勉強させられたよ」
喋りながらでもミスなくお顔を綺麗にするとお部屋のクローゼットから見たこともないような赤いドレスを持ってきました、綺麗にしてほしいと言われたのでパッと綺麗にしてあげます
するりと袖を通して形を整えたシャープさんの髪と似た色のドレスはシャープさんが着る為にあるかのようにとっても鮮やかで目を奪われます
金色の刺繍が鳥のように施されてまるで不死鳥の様で……突然シャープさんが自分の胸をスカスカと触り始めました
「これで胸さえあれば、社交界でモテモテだったんだけど」
やめてください台無しなのです……
しかしお化粧にドレスとなると気合いの入り方が違うのです
「もしかして貴族様ですか?」
「正解、たまにアクアちゃんに裏で綺麗にしてもらってたハンカチとかドレスとかの持ち主だよ」
「あれ?あれって外のクリーニング屋さんからの依頼で受けてたんじゃ?」
「どうにも綺麗になり過ぎるってんでここの事を聞き出したみたいだね」
無理だろうとクリーニングに出した布や服が綺麗になって帰ってきたのを喜んだものの、懇意にしているクリーニング屋でも到底無理そうなものが突然出来るようになったことを疑問に思い聞き出したんだそうで、ぜひ一度会いたいとの事です
「しかしこんなに早く着替えられるならシャープさんも普段通り起きても良かったのでは?」
「というわけではい、アクアちゃんもお化粧とドレスを着ようね?当然アクアちゃんも呼ばれてるんだよ?」
「え……」
ワキワキと両手を動かしたシャープさんが迫ってきます
嫌な予感がするのです!貞操の危機なのです!!
「まずは服を脱ぐのだー!!」
「きゃーーーーー!!?」
「うう……お嫁にいけない身体にされてしまったのです…」
「い……いや、寧ろ今の状況がもうお嫁にカモンっていうか……いや~~元が可愛いと大分変わるねこりゃ」
私の化粧をああでもないこうでもないと悩みに悩みながらシャープさんはお化粧を終えてその後はどこから持ってきたのか私のサイズにぴったりの水色のドレスを持ってきました
「ほら鏡見てみて」
「そんなこと言っても私は普通の村娘なので……す?」
誰ですかこの娘は
普段の私のダメなところが上手く隠されて最早別人の域に達しています、シャープさんのお化粧が異常に上手いのが原因ではあるのですが
目はパッチリとしてますし顔の輪郭というかパーツパーツのバランスが良く見えます……お化粧凄い
「アクアちゃん……求婚されたら断ってね、最悪決めている人がいるって言ってアタシを指名していいから」
「嫌なのです」
「そんな~!だってこんなの求婚待ったなしだよ!!村娘ですーなんて言っても身分なんて関係ないって妾ルート待ったなし!!兄弟でもアクアちゃんを巡って争いが起きてお家が潰れるまであるよ」
シャープさんはたまに私の事をすぐにお嫁さんにしたがるのですが慣れたものなのです
それにお化粧で多少綺麗になったくらいじゃ私が貴族様に目を掛けられることなんてないのです
「いっそアタシが男装するか……?胸もないしちょっと目つきを強くして髪を上げればいけるな、そしたら婚約者を名乗り続ければいいんだ」
「悲しすぎるのでそれ以上はやめてください…」
お胸の話は特に
「もう少ししたら迎えの馬車がくるだろうからお店の外で待ってようか」
「開店時間なので休業看板を出しておくのです」
アルケミ屋はなにかあったらお休みになります、早く閉じることもあれば少し遅く開くこともありますがここの人達はそう言った事には慣れっこです
休業の看板をお店の高いところに吊るして通りにも分かるように置きます
こういう時にお金を入れたら栄養ドリンクを販売できるように出来たら良いんですけど
「え!?ちょっと待って?もしかしてアクアちゃん?」
栄養ドリンクを毎朝買いに来る冒険者のお兄さんが私を指差してビックリしています
「そうなのです」
「…………まじか」
その後は休業の看板を見るとまじか……まじか……と呟きながら帰ってしまいました
栄養ドリンクが買えなくて悲しかったのでしょう、でもお兄さんは確かストックがあるはずなのです
迎えの立派な馬車がやってきました、気を使わないようにと馬車には私とシャープさんだけが乗る形になります
貴族様はハイアールの第一地区に住んでいて第7地区が一番遠くになります
「はー、第1区画は別世界みたいなのです」
立ち並ぶ建物達はどれも綺麗な石材で作られています、通りに並ぶお店も高級店を意識して作られているようです
「何時からか若い区画程格式が高いみたいな風潮が出来てから長いからね、前から第1区画に住んでた人達は土地を買い上げられたりして下の区画に引っ越してるね、まあ高級店ばかりで住みにくいし当然なんだけど」
「確かにたまに来るくらいで丁度良いのです」
村娘の私からすればハイアールの第7区画だって都会なのです
「おー、お屋敷です…」
錬金術ギルドよりも大きいのです
ドレスの裾を踏まないように少し持ち上げて馬車を降りるとちょっとお姫様になったような気持ちになります
お屋敷の門の前には執事服を着た方男性が待っていて私達が馬車から降りるのを待って一礼しました
「お待ちしておりました、この度はご足労いただきありがとうございます」
「いえ、鉄級の商人の私達をご招待頂けるなんて光栄でございます」
……あれ、隣にいる女性は誰なのです?
私の知ってるシャープさんはもっと男勝りな喋り方をするのです、こんなウフフみたいな微笑みをするような方ではありません
こっちの視線に気付いたシャープさんはドヤ?っとウィンクを返してきました、ちょっと安心しました
お屋敷の玄関は確かに豪華でしたが、何て言えば良いんでしょうか……全体的に纏まっています
例えばダイグさんのような人のお屋敷があったらもっと分かりやすく豪華な調度品をバンバン置いてそうな感じですがここは一体感を出すことに注力したように感じます
なにか一つが目立つ事もないという神がかったバランスだと思います
執事の方が視線を周囲に向けた私を見ると
「貴女はこの場所をどう思いましたか?」
「え!?そうですね、空間のバランスが凄い整っていると思うの……思います!どれにしても注意を向けて初めてその価値を認識出来るといいますか」
「アクアちゃんがそこまで考えてるのにアタシはビックリしたよ」
「なるほど、主人も喜ぶかと」
?一体どういう意味の質問だったのでしょう
お屋敷の中は全体的にそう言った雰囲気で時折贈られた物であろう品だけが調和を乱すようにポツポツと置かれているのが気になりました
「こちらで主人が待っております」
「入っていただけるかしらー」
執事の男性が扉の前で止まり扉をノックすると女の子の声が帰ってきます
「後は女性のみで、私はここで待機しておりますので」
執事の男性が扉を開けると小さめの机に女性が腰掛けていました
若い女性です、私とシャープさんの間くらいでしょうか
「いらっしゃい錬金術師さん、今日はじっくりお話ししましょうね、お茶飲む?」
「え、っと…いただきます」
「そっちの赤毛の人は見たことあるから錬金術師さんはこっちの可愛い青い子がそうよね」
スピード感が凄い人です、こちらの確認を挟む前に行動を始めてしまいます
「もう、お洒落なんてしてこなくて良かったのにでも二人とも綺麗ね今度私の家のパーティーに来ない?街で目を掛けた人を招待してるのよはい招待状」
ポイっと綺麗な封筒にはいった招待状がお茶を入れながら渡されます
……シャープさんが一度大きく咳払いをしてきりだします
「本日はお招きいただき感謝しております、しかし私共のような小さな店にどのような用があって呼ばれたのでしょうか」
「あ、今からその言葉づかいで喋ったらちょっと酷いことになるから普段他の人間に話すように喋ってちょうだい、今は貴族としてでなくて個人的な用事なの」
「……じゃあ普段通り行かせてもらうけどね、アンタもアクアちゃんを狙ってる口かい?」
「そうよ?とは言ってもダイグのようにしたいわけではないのよ、ちょっと話しを聞きたいだけ」
私に用ですか?洗濯物が綺麗になったのがそんなに不思議なんでしょうか
「前提から話すと私は研究者なのよ、まあ貴族といっても妾の子で後継者争いなんかに参加しようものなら速攻で殺されちゃうから全面降伏してハイアールに逃げてきたって感じなんだけど、本家の方はギスギスしてて嫌になっちゃうわ、それで昔から興味のある勇者が利用していた魔法について色々調べてたのよね」
はやいはやい!喋るのが早いのです!
貴族様は止まりません
「最近になって研究で使ってた白衣とかドレスとかがやたら綺麗になって返ってくるようになったのに気づいてね、汚れの残滓そのものが見つからない事にも気づいたのよ、でとある文献を思い出してちょっと細工をしたわけ、簡単に言えば魔力を帯びさせた物質で通常の洗濯では汚れを落とせても魔力は落とせないようにして方法を探ろうと思ったんだけどその服が返ってくるとそれすらもサッパリと落とされて魔力を検知することすら」
「あーはいはいストップ!ちょっと結論から話してもらっていいかね」
ピタッと貴族様は話すのを止めます、良いところだったのか不満げにシャープさんを見つめるとはあ、と小さな溜め息を吐きます
「あら失礼、アクアちゃんだっけ?その子の洗濯とやらを見せてほしいのよ」
「それならお安い御用なのです、お洗濯したいものを作業空間に入れてほしいのです」
邪魔にならない場所で作業空間を展開します、研究に使いたいという事なら少し大きくしたほうがいいかもしれません
広い部屋なので私が作成できる範囲の最大の大きさで作成します
「話しには聞いてたけど本当に大きな作業空間……ねえ、これを作るときに意識していることはある?」
「意識ですか……」
それを言われるとちょっと困ります、他の人がびっくりする理由が分からないくらいには私にはこの作業空間の大きさがいつの間にか普通になっていたのです
「作るときには意識していないのですが、こう……目の前の空間に対してグググーーっと力を入れるようにしてたらこの大きさまで作れるようになったのです」
「……なるほど天才肌ってことね」
「アクアちゃんは終始こんな感じだよ」
「でもおかしな話よね、学問によって練度が上がるといわれる錬金術がこんな子が感覚で伸ばせるのよ、そんなのどの派閥でも認めてない事実じゃないかしら」
あれ?でもそんなこと言ったら金の等級票を下げていた赤い髪のお姉さんはどうしてそんなことを私に教えてくれたのでしょうか
金級の錬金術師ともなれば派閥に所属していない訳がないとシャープさんが前に教えてくれました、少なくとも銀級以上で派閥に所属していない錬金術師はいないんだそうです
見どころのある錬金術師ともなると派閥側から勧誘がありそうしていくうちに教えに染まっていくんだとか
「でも村に来た錬金術師のお姉さんがそう教えてくれたのです、多分金の等級票を持ってたので有名な方だと思うのです、赤い髪の女の人なのです」
二人とも首を傾げます、何を言ってるんだろうみたいな顔です
「ん?それはおかしいよアクアちゃん、金級の錬金術師に女性はいないからね、もしかしたら流れの錬金術師で金の飾りをしてただけじゃないかな?」
「私もそう思うわ……いや待って!赤い髪の毛の女性でしょ!?間伸びした話し方をしてなたんじゃない!?」
「してましたしてました、その人に錬金術師になりたいから教えてくれって頼んだら作業空間の作り方と、作業空間を大きくして後はひたすら分解だって言う事だけを教えてもらったので数年間ずっとその練習をしていたのです」
「ちょっと待ってて!ハロルド!!私の書斎から冒険者名鑑を持ってきて!!」
バダンバダンと音を立てながら貴族様は一度部屋から飛び出していきます
シャープさんが頭をポリポリ掻き始めて参ったねこりゃと呟きました
「アタシもなんだか事の大きさに気づいてきたよ」
「赤い髪のお姉さんがどうかしたんですか?」
「いるんだよ、赤い髪で間延びした喋り方をする有名人が王都の冒険者にね」
「冒険者?錬金術師なのにですか?」
錬金術師は基本的に魔法を使えませんし戦いを通じて自分を成長するような職業ではありません、作業空間が張れる以外には一般の人達と大して変わりないのです
「実際当人もずっと錬金術師だって言ってたんだけどね」
「?じゃあ錬金術師なんじゃないんです?」
「お待たせアクアちゃん!これ!!この人じゃない!?首飾りもこれだったでしょ?」
貴族様が息を荒げながら持ってきた相当高価すぎて普段は見ることすらない絵付きの冒険者
名鑑の1ページを指さします、意匠が凝らされた首飾りも朧気ながら見た覚えがあります
1ページ丸々使って紹介されているその人は確かに私に錬金術を教えてくれた赤い髪の女の人なのです、精密に書かれた絵では無表情ですが両手の指を2本ずつ開いてブイブイってやっています
「そうですこの人なのです……あれ?なんで冒険者名鑑に?」
「アクアちゃんページの上の方を見てみて」
「えーと、金級冒険者のケルヒさんって言うんですね……うぇ……」
金級、確かにそう書かれています
王都でも5人しかいない冒険者の頂点、上級の魔物を討伐することができる人類の到達点とも言われる称号の横に高位の冒険者にだけ贈られる二つ名まで記載されていました
“理解不能” それが私に錬金術を教えてくれた赤い髪のお姉さん、ケルヒさんの称号でした
まず出会ったらお互いに挨拶をさせないといけない(作品内でよくあることへの戒め)
基本的に無能なキャラクターを出したくないという思想ありきなのでこいつエスパーか?と思っても頑張って耐え忍んでください、お話を進めるためには必要なんです
ただ最近はアクアが賢くなりすぎてると思うのでもう少しゆるゆるにしてあげたい