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父は本当に母を愛していた
母の希望で婚約を認めると
祖父が怒り、爵位を強制的に父に譲り領内に引きこもった
将軍位を持っていた祖父の急な引退に王宮内は焦った
冒険者としてもS級を持ち、騎士だけでなく民衆にも人気のあった祖父
周辺の国々が、侵略を狙って色めき立った
魔の森に近い領館は魔素が溜まりやすく
一族以外から嫁いだ母は、
もともとの体質もあったのだろうが身体を壊すことも多くなったため
父は母を伴い王都へ移り住み
外務局に席をおき、各国に武力を誇示すのではなく
魅了(外交)して事態を収拾していった
虎視眈々と狙っていた国々と
良好な関係を築いていくと、父の役職が上がっていく
今の国王が即位するのと、時を同じくして外務大臣にまで昇格した
魅了の魔法
禁断ともいえる魔法
家族でも俺と祖父しか、父がその魔法を持っている事を知らない
普通の精神では、使いこなせない
父も壮絶な努力と強靭な精神力で、コントロールすることを学んだ
なぜか一族の者には、その力は効果がない
伴侶を一族から選ぶつもりであったが
父は母に出会ってしまった
抑えられない気持ちが、母に求婚し結ばれた後は
甘やかし、希望を叶える事を優先させてしまっていたのだ
人からの好意を信じることが出来ない
魔法によって好かれているのか、それとも本当に自分を愛してくれているのか
父の心が疑心暗鬼から逃れることはなかった
その父がある日
「魅了を俺に使おうとした小娘がいた」
と、笑って帰ってきた
まだ小さな女の子が、商売相手である父に向って魔法をかけてきたのだという
「あれは、無意識なんだろうが………おもしろい」
初めて自分と同じ魔法を持つ少女に出会ったことに、興奮していた
百年に一人とされる珍しい魔法なのだから、当然でもある
同じような能力を見つけたそれだけだった
コントロールの仕方を教えられるわけでもない
手助けするわけでもない
そんな事をすれば、自分の持つ力が人に知られる可能性がある
危険を冒すわけにはいかないのだ
ただ、彼女の父の商会 フランキー商会へは一族の人間を潜り込ませることにした
そして、月日がたち
母が亡くなった
身体が弱っているところに、流行り病である
風邪を引いたなぁ、と思っているうちに亡くなってしまったのである
父は悲しみ
自分を呪った
領内の魔素に触れなければ、体調を崩さなかったのでないか
その前に、自分を本当に愛してくれていたのか?
魔法で愛していると思っていたのではないか??
初めて、父の悲しみ、苦しみを目の当たりにした瞬間だった
母は本当に父を愛していたし、
魔素の影響だとて、都に居を移すと回復に向かっていた
運が悪かったのだと思う
母の葬儀が終わると、父が決意を打ち明けてきた
「ダイアナの婚約を解消しよう」
王家から望まれての婚約
いまさらローリック家から解消することは難しい
父には王子がダイアナを大切にしているとは思えなかったようだし
他の女に手を出している事もバレていた
誰にも気づかれないように水面下で婚約解消に向けて動き始める
まず、フランキー商会へ優先的に魔石を融通し
魔獣討伐の為の武器つくりの依頼をした
魔石を使った大砲、銃をフランキー商会に潜り込ませた者により発明させる
すでに領内では秘密裏に実験段階に入っていたものだが、
屑石のような土の石、風の石を一緒にさせたところに火の石をいれ粉塵爆発を起こさせる
実際に爆発させるのではなく、石の効果を利用するので、薄い鉄でよい
鉄が薄ければ、経費も安く軽く持ち運びが便利となる
同じように、罠であったり遠視が出来るスコープだったり
いくつかの新武器を開発したフランキー商会が独占的に売買できるようになると
国も放っておけない
王へ
「国外へ武器の流出の不安、技術開発の優良性」を説き
商会の会主てあるダン・フランキーへ男爵位の爵授をそそのかした
領地もない男爵位は名誉職だ
王家にとっては、痛くもかゆくもない。お互い利点しかないので、すぐに認められた
自尊心が高く、上昇志向のリリー・フランキーの性格は
すでに商会に潜り込ませている部下から報告を受けている
あとは、放っておけば勝手に王子を唆してくれるだろう
必然とリリーは学院に編入していく
タイミングよく王太子は卒業し
学院の中で最高位はウィリアム王子である。
王子がハニートラップに負けず、ダイアナを欲してくれれば
それは、それでよい事で
俺が父に王子とダイアナの結婚を説得しよう……
どちらでも良いよう準備はしておく
タイムリミットは、王子の卒業まで
さて、どうなるか
準備だけは万全に備えておこう
うまくいけば
父も俺も自由になれる………
そんな事を夢見て