双子の執事
「バカじゃないの‥‥‥」
ローリック家の執務室で、執務机ではなく、
応接セットに座っている俺と執事のワトソン
目の前には、ローリック家の書類が所狭しと置かれている
これから領地に戻る俺と母の代わりに王都での執務をこなすのは
執事のワトソンが中心になる。
このワトソンはマナーハウスの執事であるマイクの双子の兄にあたる。
一卵性双生児の双子で、どんなに離れていてもお互いにシンクロしたり、心話が出来る。
おかげで、領地と王都の意思の疎通は、オンタイムで出来る
それに憧れて、一番最初に作ったオリジナルの魔道具が『通信機』だ
大きな魔石に録音と再生の魔法陣を改定して裏表に書き込み、2つに割った。
それをダイアナと俺で握って、魔石に話しかけると。相互通話が出来るようになった。
母や弟たち、トルスタインに握らせても使えなかった。
今では、書き込み魔法陣に改良を加え、他の者でも使えるようになった。
今でも改良をし続けている思い出深い魔道具だ。
「明日の王太子の会談後、すぐに各爵位の譲渡が出来るように
書類を作成する事でよろしいでしょうか??」
ワトソンが苦笑しながら、書類を纏めてくれる。
いまローリック家の管理している爵位は、伯爵位が3つ、子爵位が9つの12個
はっきり言って異常だ。
金にも権力にも興味がない祖父や父に
借金や罪を犯した事などで王家に返上された爵位が下賜された物だが、
内容を見ると、王家で持て余したお荷物を押し付けられていた状態。
それを、祖父の元部下の引退した騎士を中心に立て直した領地ばかりである。
ジィ様の時代は他国と小さな争いがあった。
その後、叔父が外交をするまで、他国との国境付近は不安定だった。
その2つの要素が解決した後に、不要になるのは過剰な武力。
多くの騎士たちを養うのに割く予算を嫌った王家にとって、
不良債権を一手に引き取ってくれるローリック家は、有益だったのだろう。
だが、それが不良債権ではなく優良債権になった‥‥‥
「ああ、魔の森の周囲の2つの領地を持つ子爵位だけを残して、
あとは、いま管理している者たちに、
それぞれの領地についている爵位を継いでもらう方向で
王太子に納得させるから、書類は作っておいてくれ。
今回に限っては、相続にかかる税金も免除をさせるので、
各領地には負担にならないだろう。
‥‥‥しかし、これだけの領地を1つの侯爵家に与えるなんて、
王家はバカなのかね??
クーデターを起こしたら、国すら奪えるぞ」
与えられた時の領地は、お荷物でしかなかったが、
今では、豊かになり、元高位の騎士やその部下が管理しているので、
治安も良くなり、彼らがジイ様に褒められたいばかりに競って領地開拓をした結果、
おかしな事になっている。
「そうですね。…‥下賜された時は、ローリック家の力を削ぐつもりもあった。
お荷物領地もありますからね。
まぁ、税を取れるわけですから、
途中から自分たちで投資するよりも、金になる。と考えたのでしょう。
欲のない一族でしたから、謀反を起こす。
なんて面倒な事はしない。とバレていたのだとも思いますよ」
公爵家を凌ぐ領地になっているのは、おかしいと思うが………
「それにしても、アルフレッド様がやる気を出してくれて助かりましたよ。
こちらに到着した時の態度は、
決して次期侯爵として認められるようなものではありませんでしたから。」
アッ、ごめんなさい。
こちらもタイムアップ直前だったんですね。
叔父やトルスタインが出て行って不安だった使用人たちに見せる態度ではなかったからな
「申し訳なかった。ワトソン。
心を入れ替えるから、これからも仕えてくれるだろうか??」
頭を下げる
「まぁ、もう少しで追い出すところでしたけどね。
侯爵様や若から、王家と一線を引く事は決定事項として伝えられてましたし
いくつかの未来も示唆されていました。
ですので、こちらは準備がある程度は出来ておりましたが、
アルフレッド様には寝耳に水の状態でしたでしょうから、
今の時点で立ち直っていただけのは、許容範囲内です。
もともとは優秀な方なのですから、これから期待していますよ」
ジイ様から仕えている、ワトソンとマイクの二人にとっては
出来の悪い孫を見るようなのだろうな
「こちらこそ、俺が領地に引き込もる事も決定事項のようだし
王都での仕事など迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いします」
一度、目線を合わせ、また頭を下げる
「明日、王家の面談が終われば、あなたが侯爵です。
私たち使用人への敬語は必要ございませんが‥‥
これからビシビシと指導はさせていただきますので、
ご覚悟は下さい。
では、書類の作成や準備をいたしますので、一度下がらせていただきます。
何かあれば、お呼びください」
少しは、認めてもらえたのだろうか??
いくつかの書類を抱えて、部屋を出ていくワトソンの後ろ姿を見送った。




