戦いの合図
ローリック家では、学院に通っていた時代からの俺の部屋がある。
日常的に使うわけではないが、
王都での自宅には置いておけない貴重な素材などを保管も含め
自室と研究室とを置いている。
慣れたもので、ベッドから起き
自室に備えている洗面所で身支度を整えた。
久しぶりに懐かしい夢を見て
憑き物が落ちたような気分になる。
家族用の小さなダイニングに行くと、
母が、すでに朝食をとっていた。
「母さん、おはよう」
「おはよう。なんだかスッキリした顔をしているね」
笑って、俺の朝食の準備を侍女に手配させる
「あぁ、悪かった。今まで、我がまま言って。
色々とありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
イスを勧められたが、その前に頭を下げた。
「なんだ。やっとか‥‥‥」
ニヤッと笑う
「まだグダグダ言うなら、アランと離婚して、侯爵家に戻ろうかと思っていたよ」
良かった‥‥
タイムリミットに間に合って。
そんな事になっていたら、父に物理的に殺されていた。
「旅の途中で、経緯は話した通りだけど、
王太子殿下と暗部からの報告が入り、
すでにウィリアム王子の廃嫡は決定し、言い渡されたそうよ」
数枚の報告書と王太子殿下からの手紙が手渡された。
王子や側近たち、王子の恋人の処分内容。
これからの侯爵家の立場など、ほぼローリック家の希望に沿っていた。
「これから、ローリック家に王は一切の発言権を失う。
従うのは、王太子にのみと決まった」
「王家との関係は切らないが、一線を引く。って事で良いんですよね」
母に確認を取る
明後日には、王宮で謁見の予定が入っている。
「そうね。今回の件が後始末が終われば、領地に引きこもってよいわよ」
母がため息を一つつく
「‥‥‥ローリック家は大きくなりすぎたわ
今回の件で解体して、魔の森の守護だけに戻るのに良い切っ掛けになったわ」
もともと王家や権力から一線を引いていたローリック家
それが、先代王の時代に祖父が英雄と言われ、
軍隊を引き連れ他国との小競り合いを平定した。
叔父が外交で友好条約を結び。
トルスタインが財政を豊かにした。
その度に褒章として、伯爵位やら子爵位やら譲渡され領地を拡大しつづけた。
「まったく、お父様もカールもトルスタインも優秀すぎるのよ!!
最後の一押しが、アルあなたよ
魔道具を次々に発明して‥‥‥
いくつかは、王家や学院に譲渡しても、利が大きすぎる。
そのうえ、お父様を慕っていた退役軍人たちとカールが外国から拾ってきた孤児や奴隷たちによって
暗部まで作り出すし‥‥‥」
えっ??俺も?
「アルあなたは、侯爵と子爵を受け継ぎなさい。
その他の爵位は、一族以外に継がせます」
引きこもりの許可と、少しでも身上が軽くなるのは嬉しい。
魔道具を作る事が楽しくて、その後の事はあまり考えていなかった
ずいぶんと家に迷惑をかけていたんだな。
これからは、もっとシッカリとしなければ
「ご配慮をありがとうございます。
魔道具の事にしても、迷惑をかけていたんですね??
勉強不足でした」
母にもう一度頭を下げる
「利権などをまかせるように言ったのは私たちです。
でも、これから少しずつ覚えていきなさい。
ローリック家は、貴族の腹芸など出来ない一族だったのだけど、
ここ何代かは、王家に近くなりすぎました。
切り替えられる事は吉報だと思うのよ。
だから、大丈夫。自信をもちなさい。
あなたなら出来ると、みんな思っているわ」
珍しく母に励まされた。
母はやはり侯爵令嬢だったのだな
普段は森の中を走り回っていても
一族の事を把握して、導いてくれている。
俺も早く、自信を持ちたい。
「私がこちらにいるのは、2カ月だけよ
その間に全てを終わらせなさい。
もちろん。帰るときは嫁も連れて帰れるんでしょうね??」
釘を刺された
全てを2か月以内に終わらせろ。って事だよな
さて、何から取り掛かりますか
魔道具と同じ、まずは工程表を作る事から始めますか
失敗は出来ない。細心の注意を払って進めていかなくては
「はい。そのつもりです」
「よろしい」
お互いに目で合図して、席を立った
それぞれの戦いの合図が聞こえた。




