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トルスタイン目線
1日目
王に婚約破棄の書類を許諾させる
それぞれの仕事の引継ぎ
父は内大臣の元へ
・父の外務大臣、辞職の書類
・俺の財務局退職の書類
・従兄アルフレッドへの爵位の譲渡の書類
・領地、財産をアルフレッドへ譲渡する書類
用意していた4通を渡した
全て王の裁可が必要な書類である
これを大量の書類に紛れ込ませ、うまくサインをさせるのは
父の政敵と言われる内大臣が行ってくれる
政敵と言われているが、本人たちは良きライバルである
お互いに罵りながら、認めあっている間柄
ダイアナにも心を掛けてくれ
一歩間違えば、自分が処分を受ける可能性もある危険な仕事を引き受けてくれた
2日目
従兄のアルフレッドへ爵位の譲渡に伴って
領内から都に居住を移すように内々に通達する
アルフレッドは、好意を寄せている相手から無位な事に難色を示されていた
もともと父が持つ子爵の位を譲るつもりであったようだが
今の状況は彼にとって好機であるだろう
冒険者に復帰した祖父が後見を勤めてくれるので、没落の心配もない
ダイアナを領地で謹慎させる為に旅立たせる
3日目
父と俺の辞職の書類にサインさせた事の連絡がきた
これで、父と俺が領地に引きこもる事が承認された
4日目
アルフレッドへの爵位、領地、財産の書類がサインされた
これで、全てが終われる
ただ、俺と父の計画外のことが2日目におきてしまっていた………
2日目に領地へ旅立ったダイアナ
ダイアナ本人も、屋敷の者もディーが一緒に行くものだと思っていた
馬車に乗ろうしないディーにダイアナが
「どうかしたの、ディー
一緒に領地まで帰ってくれないの?」
と、悲しそうな眼をして玄関の前でたたずんでいる
「申し訳ありませんダイアナ様
急な事で、準備が整っておりません
こちらの用事を済ませて、後から追いかけますので
先に領地に行っていてくださいませ」
ディーが答える
たしかに急に決まった帰省だ
ディーの言う事も頷ける
「わかったわディー
いつも面倒をかけて、ごめんなさい
待っているわ」
そう声を掛けるダイアナに向けて
満面の笑みを浮かべるディー
「お嬢様、大好きですよ」
「まぁ、何を言っているのかしらディーは………
私も、あなたの事が大好きよ、早く来てくださいね
では、皆さま
ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんが、後の事はよろしくお願いいたします。」
そう言い
父と俺、屋敷の者に礼をすると
馬車に乗り旅立っていった
パーティー当日に遡る
父とダイアナと3人で書状を確認し
これからの計画を話し合った
ある程度の目途がついた時点で、先にダイアナを休ませる為、自室へ下がらせた
そこからの計画はダイアナにも聞かせたくないからだ
父と二人で話し合い中に、ディーが部屋に戻ってきた
ダイアナに何かあったのかと心配したのもつかのも
ディーから驚くべき提案がなされた
「ダイアナ様の冤罪を防げなかったのは私の責任です
学院内でのことはわかりませんが、王宮に呼ばれた時や
ウィリアム王子にエスコートされる時は、同行しておりました
お二人の関係が悪化している事も肌で感じてました
しかし、ご主人様への報告をダイアナ様に止められていたとはいえ
するべきでした。
パーティーへのエスコートのお断りの手紙も
昨日のうちに侯爵様に報告していれば、このような事にならなかったはずです
………どうぞ、私に罪を償わせてください
国家反逆罪……そんな事ダイアナ様には出来るはずがないのです」
ダイアナを慕っているディーの提案
お茶を運んでくれた時に、耳に入ったのであろう罪状
決して、今回の結果は彼女のせいではなく
どちらかというと、そうなるべく仕組んだ自分たちの責任でもある
「ディー、大丈夫だよ
君が気にしなくて良い。こちらで何とでも出来る
いままでどおりダイアナに仕えておくれ」
優しく声を掛ける父を
ジッーと見つめかえすディー
そして、何かを決心したような強い目をしたかと思ったら
「私のようなものが、意見を言うなど大変失礼いたしました。」
そう言って、軽く礼をして部屋を出ていった
俺と父はお互いに目を見合わせて、ため息を付くと
悪だくみを続けることにした
計画になかった異変が起こったのは2日目、ダイアナを旅立たせた午後
部屋で書類の整理をしている俺をフットマンがあわてて呼びに来た
ダイアナの私室
そこで首を切ったディーが発見された
横には父と執事が膝をついていた
何が起きているのか理解が出来なかった
ディーはダイアナの服を着
ダイアナの靴を履き、首からは大量の血が流れた跡が残っていた
ディーではなくダイアナが横たわっているようにも見えた
茫然としている俺に1枚の手紙が渡された
そこには
『今まで、ありがとうございました
傷つき、空腹で死んだような私を育て侍女にまでしていただいた
ローリック家の皆さまに感謝しかございません
何もできない私ではございますが
なにとぞ、遺志をくんでくださいませ
ダイアナ様には、手紙を用意いたしました
大変申し訳ありませんが、
出来ましたらそちらをお渡しいただきますようお願い申し上げます』
そんな遺書であった
何が言いたいのかは、わかった
国家反逆罪………例え侯爵家の者であっても処刑されても反論できない罪だ
ディーとダイアナは目の色が違うがよく似た髪色を持ち
年も近く、背格好も似ていた
言いたい事は、誰の目にも確かであった
封をしていないダイアナへの手紙……
きっと、中を確認しろ。ということなのだろう
机の上におかれたそれをワトソンが父にわたし
父から俺に渡された
王都に好きな人がおり、その人と暮らしたいので
ダイアナには付いていけない
申し訳ないが、許して欲しい
という内容だった………
ディーの優しさと潔さに心を奪われる
先に立ち直ったのは父であった
「ダイアナは死んだ!!皆、それで間違いないな!!
侍医と教会に使いを出して、来て貰ってくれ
手紙は、わたしが預かる
ディーの遺志を無駄にするものではない」
そう、ハッキリと言い切って
細かな指示をしていく
俺は、まだ現実が受け止められない
なんでも思い道りに進んでいると盲信していた
自分に酔い知れていたのだろう……
鬱々としていると、父から檄が飛んできた
「トルスタイン!!
ディーの思いを無駄にするつもりか!!
悩むのも反省するのも今ではない
自分のやることをやれ!!」
父に怒られたのは、いつぶりだろう??
自分の甘えた状況に恥ずかしくなる
きっと、父も同じ気持ちをもっているはずだ
そこからは、早かった
計画以外の事だとしても、それを利用しない訳はない
ディーへの謝罪は、全て終わってからだ
侍医と教会にて死亡が確認される
父は「うちのディアナが……」
と、言えば
侍医と司祭は、『ダイアナ』と死亡診断書を作成してくれた
それを王宮に持っていくのは、全てを終わらせる
父と俺が出立する日にすると決めた
そして、全ての承諾書に王のサインがされた4日目の午後
パーティーが行われた日から数えて5日目に父が王宮へ死亡診断書を提出に行く
それで、全てが終わる
王宮に行く前
宮にいた部下から報告が入る
どうやら、ウィリアム王子がリリー、側近を呼んでお茶会を催しているらしい
それを聞いた父の顔が恐ろしい顔になる
俺も王宮にある私物を持ち帰る為に同行する
これが終われば、領地へ向かいダイアナと合流して
新しい生活が待っている
ダイアナはいない事になってしまったが
もともと捨てる身分であったので、ディーとして生きてくれれば良いのだ
ディー………
忠実で潔い妹の侍女
君の事が、好きだったよ
身分がなくなり、横に立つことが出来るようになったのに
手が届かないところに、旅だってしまったね
ダイアナしか見ていなかった君の瞳に俺が映ることは永遠にない
なんて謝れば良いのだろう……
でも、君がくれた自由
俺も父もダイアナも大事にさせてもらう
君がいない世界で生きていくのは辛いけど
頑張るよ
大好きな君へ
それが、俺の罪なのだから




