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短編で書いたものですが

連載にしてみました



「ダイアナは死んだよ」


5日前に王国学院の卒業パーティーで断罪イベントを済ませた。

ヒロイン、第二王子、宰相の次男、騎士団長の嫡男、将来有望な魔法士の5人。

勝利に酔いしれ、王宮でお茶会をしていた席に。

悪役令嬢の父である、外務大臣を務める侯爵が面会を求めてきて、そう言い放った。


王国学院は貴族の子息と一部の有力商人の子が学ぶ学校であり

その中にヒロインである男爵令嬢が、父の叙爵に伴い途中入学してきた。

侯爵の娘のダイアナ・フォン・ローリックは幼い頃、1歳上の第二王子の婚約者に選ばれ、

お妃教育を完璧に身につけた、誰もが認めるレディであった。

そのダイアナを第二王子が卒業するパーティーで断罪した。

ヒロインであるリリーを虐め、ないがしろにし、ケガまでさせた

そう信じ込んでいる4人に断罪され、

罪は認めなかったが、婚約者の座を降りることを約束させた。

誰もが認めるダイアナの悪事を裁き、辱めたことに5人は大いに酔っていた。

そんな中での突然の訃報であった。


侯爵の言葉に5人は絶句した。

いや、5人ではない、ヒロインの口元は醜く歪んで笑いをこらえているようだったが……。


「私も責任をとって外務大臣を辞任。息子も財務局を辞職させた。

侯爵位も、甥のアルフレッドに譲渡する」


あまりの大事に、誰も身動きが取れない。

ダイアナは美しく聡明な女性で、第二王子の婚約者から外されても、引く手数多だと、

ヒロインのリリーがいつも他の4人に言っていた。

だから、誰も自殺するなど思ってもいなかった。

父親の侯爵は外務大臣として国の外交を一手に担っており、国王の信頼も厚い。

兄のトルスタインも財務局に勤め始めてわずか数年で不正を糾し、帳簿の改善を行い国庫を豊かにした実績は、王宮内でも有名である。

その二人が職を辞して、なおかつ爵位まで下りたのだ。

学校を卒業したばかりの17歳の若者には重すぎる現実に、誰も声を発しない。


「ダイアナの罪の中に、リリー嬢に犬をけしかけたというものがあったな。

そこに王子がいて庇ったから、かすり傷程度で済んだと。

その罪のおかげで、国家反逆罪だ

王子がその場所にいたとなると、王子を狙った可能性も指摘できるのでな。

まぁ、そのおかげで私たちの辞職も爵位の譲渡も認められた

他にも色々と罪を並べてくれたおかげで、王宮は大変な事になっているぞ。

しかし、さすがの王も私を止められない……。

さて、もう受理された事だし、王子殿下がたには2度とお目にかかることはないだろう。

お礼をもうし…………いやいや、身分と共に口も軽くなったか。

では、失礼する」


そう言うと、なぜか苦笑しながら扉の方に向かっていく。

ノブに手をかけたところで、思い出したかのように振り返り。


「そうそう、魅了の魔法って知っているか?」


と、それだけ問うと

答えも聞かずに退出していった。



残されたのは、茫然とした男たち。

「国家反逆罪ってなんだ?」

「侯爵が辞職?」

「ダイアナが自殺……?」


最後の侯爵の言葉は耳には入っていない。


全ての手続きが終わり、王宮を辞した

侯爵と息子のトルスタインは上機嫌で急ぎ王都の屋敷に戻っていく。

この5日間で水面下で手続きは終わり

あとは、新しい侯爵である甥を待つだけとなった屋敷。

甥である新侯爵は無能でない。だが、特別有能でも今のところないが、

没落させる事もないだろう。

屋敷も使用人も領地も愛着があるが、

それに伴う重責を考えれば、財産・身分とて割に合わないと思っている。

この家に生まれた責任を呪ったこともあるが

ブルーブラッドの宿命。与えられた責任は、死ぬまで全うするつもりでいた。

それが、王族によって『いらない』と言われたのである

ならば、責任も義務も捨てても良いだろう。

その機会は、自分の代では来ないと思っていた。


もともと軍功で爵位を得た一族。

領地に魔物が多く出る森を持ち、先祖代々一族が鎮圧してきた。

知られていないが、侯爵家の一族は有能な冒険者の一族でもある。


いま何のしがらみもない。

第二王子の生母と親友であった侯爵夫人を4年前に流行り病で亡くし

トルスタインはまだ独身。

娘のダイアナは、王家から冤罪をかぶせられ縁を切られた。

もう、何の遠慮もいらない。


トルスタインが笑顔で馬2頭を連れてきた。


「父上、早く行きましょう。ダイアナが待っています。

王にばれる前に、とっとと行きますよ」


と、手綱を手渡してきた。


そう、娘は死んではいない。

死んだのは、責任を感じた同じ名を持つ侍女だった。

彼女は、自分をダイアナの代わりに。と遺書を残していた。

主人の思いを誰よりも身近で感じていた忠義者。

彼女の死を無駄にはしない。


辞職の手続きは、すべて政敵である伯爵に渡るように裏工作をしていた。

そうすれば受理までに時間はかからない

なかなか有能な彼は、3日で受理させてくれた

おかげで、王にバレてはいないはずである。


3日後には、ダイアナが断罪された罪への調査報告書が王宮に届くように手配してある。


その頃には3人で国境を越えられるだろう。

これから、楽しい冒険者生活が始まる。

第二王子には感謝はするが、かわいい娘を陥れた責任は取ってもらう。


さぁ、新しい生活が始まる。


ただの父と息子に戻った2人は、

かわいい娘であり妹でもあるダイアナの待つ場所へと馬を走らせた。



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