1過労死しました。
真っ暗なオフィス内に一カ所、蛍光灯に煌々と照らされた場所があった。
夜闇の中でPCの青白い光が浮き上がっている。
窓からは月明りが差し込んでいた。
街灯の光が雪道を照らし、まばらな車が通り過ぎる。
居酒屋の提灯はすでに光が消され、看板は裏返しとなりCLOSEの文字に変わっている。
コピー機の印刷音を確認し、データを上書き保存する。
PCをタイプする音だけがカタカタと響く。
懐中電灯を持った警備員が通路を通り過ぎていった。
「もう無理。限界…!」深夜12時の金曜日。
世間はプレミアムフレイデー、呑み会に出かけるサラリーマンやOLを思うと怒りしか湧かない日である。
プレミアムにフライデーする前に、私の命がフライデーしそうだ。
帰りたいが、帰れない。疲労による頭痛で死にそうだった。
机脇の引出しから常備しているエナジードリンクを取り出し、喉に流し込む。
電気が消されたオフィス内で一人残り、パソコンを叩くのは私だけ。
「帰りたい、けど月曜には監査がある」疲れで独り言が止まらない。
眠気はもうどこかに忘れてきてしまった。人の体は案外と適応能力が高く、アドレナリンでも大量放出されているのか意識だけは冴えわたっている。
「あと少し…あと…」エクセルに数値を入力し、合計値を見ると…
ぴたりと手元の資料と合致した。
「合った!数値が…!よし、帰ろう!」頭痛が止まらず、視界は霞む。
事務員として勤務すること4年が経過していた。
“事務なら定時で帰れるんでしょ?いいな~”なんて羨まれることはあるが、定時に上がった日なんてこの4年間で数えるくらいしかない。
「帰ろう、帰ろう…さっさと帰ろう…」何も考えられない中で、出来上がった資料をファイルに分類する。
「電源を落として…」パソコンをシャットダウンし、資料を机にしまって施錠した。
PCのカードリーダーから社員証を抜き取る。
「疲れた、まじ疲れた」疲労で上手く息が吸い込めない。
横並びになっている同僚の机を横目に見れば、出しっぱなしの書類が目に入る。
「個人情報…しまえよぉ…!」仕方ないから、一旦は私の机に片づけておこう。
そう思い机下に置いたカバンを掴んで立ち上がった時だった。
「え…?」急なめまいに立ちくらみ。歪む景色は天井を向いている。
ゆっくりと落下していく感覚。
意識が徐々に遠のいていく。
――――データの保存先、係長は見つけてくれるかな。
倒れながら考えたことは、結局最後まで仕事のことだった。