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藤原道隆の二女 原子

 藤原 原子(げんし/もとこ)


 藤原道隆の二女──つまり、以前に登場した一条天皇の皇后定子の同母の妹さんです。

 定子よりは三つ年下だったのではないかと言われています。



 姉の定子が一条天皇のもとへ入内した五年後の正暦6年(995年)の一月。

 

 原子は、時の東宮・居貞親王(のちの三条天皇)のもとへ東宮妃として入内します。

 与えられた局は淑景舎。源氏物語でも有名な「桐壺」の御殿ですね。


 入内してからひと月ほど経った頃。

 原子が姉の定子の住む登花殿(とうかでん)を訪ねたことがありました。


「枕草子」の「淑景舎、東宮に参りたる頃……」から始まる段にはその時の様子が、目に浮かぶように活写されています。

 

 原子の到着を待つ間、定子が清少納言に言います。


「少納言は淑景舎をおみかけしたことがあって?」


「いいえ。後ろ姿をちらりと拝見したことがございますが……」

と答えると、定子は


「それならそこの屏風の影からそっと覗いてご覧なさい。とってもお美しい方よ」


 これ幸いと清少納言は物陰からそっと覗きます。

 

 この時、原子は恐らく十四、五歳。

 華やかな紅梅色の袿を幾枚も重ねた上に、萌黄色の表着をまとっているのがいかにも初々しく可愛らしくて、清少納言はうっとりと見惚れます。


 そしてその原子に向き合って座っている中宮定子は、18歳。今を盛りのお美しさです。

 元来の美貌が、入内して以来、帝の寵愛を一身に集め、後宮の唯一の女主人として君臨することで増々磨かれ、眩いばかりに光り輝いています。


 やがて、内大臣となっている兄の伊周、三位の中将隆家らもやって来て、華やかで楽しい一家団欒が繰り広げられます。


 そこへ、東宮から原子に文が届けられます。

 文使いとしてやって来たのは、定子、原子とは異母弟にあたる周頼の少将。

 関白道隆がその場にいることをご承知のうえでの御心遣いですね。


 皆が見ている前なので、原子は恥ずかしがってなかなかお返事の筆がとれません。

 まわりに急かされて、はにかみながらようやく返事の御文をしたためます。


 やがて夜になると、帝と東宮両方からそれぞれの妃にお召しを促すお使いがやって来ます。


 美しい姉妹は恥じらいながら、


「では、貴女をお見送りしてから私は参りますわ」

「いいえ。お姉さまこそ、どうぞお先にいらして」


 と譲り合っています。


 兄の伊周が笑いながら、

「東宮の御殿はここから遠い。まずは淑景舎を先にお送りしよう」

 と言って原子を東宮御所へ送り、そのあとで定子を清涼殿へと送っていきます。


 この頃が中関白一家の一番華やかな時代でしょうか。


 それから三か月後の五月。

 父の道隆が急逝すると、一家の運命は途端に翳りを帯び始めます。


 兄弟の伊周、隆家らが花山院に矢を射かけた事件で失脚し、流罪となると中関白家はみるみる凋落し、原子も宮中を退がらなくてはならなくなります。


 原子は、姉定子が亡くなった翌年、世を去ります。

 まだ二十二歳の若さでした。


 東宮は、「自分が即位したら、さまざまにして差し上げたいこともあったのに甲斐のないことになってしまった」と原子の早すぎる死を悼まれたと言われています。


 この原子の死に関しては、少し奇異な話があります。

 

 亡くなるその日の朝まで常と変わらずに過ごしていた原子は、突然鼻と口から血を流してそのまま亡くなったというのです。

 そのため、原子のライバルであった宣耀殿女御、藤原娍子(せいし)の女房たちに毒を盛られたのでは……という風説が流れたことが「大鏡」に書かれています。


 でも、この時点で頼りになる後見もなく、皇子にも恵まれていなかった原子は、幾人もの皇子に恵まれていた娍子の陣営にとってはハッキリ言って敵ではなかったはずでわざわざ毒を盛って殺す必要があるとも思えません。


 恐らく何かの病で亡くなったのを、子を敵対視する他の妃の陣営かどこかからあらぬ噂を立てられたのではないでしょうか?



「枕草子」の清少納言の描写がお見事なため、この中関白家の姫君方は、実際に勝者の側となった道長家の姫たちよりも、ずっと華やかで美人というイメージがありますね~。


 平安時代好きの方のなかには、「中関白家が一番好き!」と仰る方が結構多いのですがそれもこれも、清少納言の筆の力の威力が大きいと思います。清少納言、すごい!

 

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