プロローグ [N.G]
各タイトル後ろのアルファベットは、視点人物のイニシャルです。
予言者と転生者は、対となる存在である。
忍び込んだ王室で隠し扉を見つけて、中の部屋にあった本をどれどれどんなやべぇ内容なのかと意気揚々と読み始めたまではよかった。
父上に見つからないように詳しく読むのはまたいつかにする予定だが、ざっくり読んだ内容を要約するとこうだ。
これはこの世界の歴史に、未来が断片的に見える予言者という人間と、別世界で生まれてから死んだまでの記憶を有したまま生まれ変わった転生者という人間が居た、と仮定した上での空想小説らしい。
「読みもんとしては面白ぇけど、この本がこうも隠されてた理由が腑に落ちねぇな。……父上が子どもの頃に書いた恥ずかしい空想小説とか?」
だとしたら燃やすだろう。いや、結構うまく書けてるしそれは惜しいと考えたと思えなくも……ねぇな。ねぇわ。
内容が突飛とはいえ、話は常に大真面目な文体で進んで行く。まるで本当にあった事をただ記しただけのもののように。
一々無駄にそれっぽく実際のこの世界の歴史に絡められたそれらは、この時の歴史の事件は実は転生者が裏でこんな事をしていたゆえに起こったやら、予言者がこんな予言をしていたゆえに大事件にならなかったやら、軽く読んだ限りじゃうまく矛盾無く書けている。
惜しいのは、特異な能力を持った人間が居れば当然の流れと思えるとはいえ、話が進むに連れて予言者も転生者も政治的な道具と扱われ始めるところか。
どの国が予言者を有しているだとか、転生者の存在を隠して囲っているだとか、どちらの存在も信じていない国に対して戦争を起こし有利に事を進めるだとか。
「何でせっかく面白い奴等が居るのに、こうも面白くなく展開するかなぁ……?」
思わず不満の声を洩らす。
武術や剣の稽古や勝った負けたは楽しいが、戦争となると話は別だ。数多の人を殺してまでやりたい事なんて俺にはねぇし、理解に苦しむ。
裏であれこれ画策したり、人に指示だけ出して上で贅沢暮らししたり、何が楽しいのかさっぱりわからん。
面白そうな事見つけたらそのど真ん中に走って行って、どんちゃん騒ぎする方が楽しくねぇか? いやむしろ、俺なら自分で面白ぇ事を作り出すね。
転生者と予言者。もしもそれらが実際に存在しているとしたら物凄く面白ぇし、それなら俺も今まで嫌でしょうがなかった王になってやっていいとさえ思える。
だって、そんな奴等が居るなら使える権力は大きい程、一緒に面白ぇ事が出来そうだ。わくわくする。
いいなぁ、マジでこの世界がこの空想小説の通りだったらよかったのになぁ。
「ノラン王子様ー……! いらっしゃいましたら、お返事を! ノラン様ー!!」
「あ。やべ」
世話係が大声で俺を探している声が部屋の外から微かに聞こえて、俺は慌てて本を戻し部屋を出る。扉を元あったようにタペストリーで隠して、違和感や入った形跡が客観的に見えないかと少し離れて確認してから、よしと忍び込んでいた王室を出る。
んー、やっぱトイレに一時間は無理があったかー。めちゃくちゃ便秘なんだろうなあの王子、って思ってくれりゃよかったのに。
しょうがねぇから、王室に忍び込む前に城内で捕まえたなんかよくわからねぇ黄緑色のでけぇ虫見せて、死闘だったって言い訳しよ。実際には俺の圧勝で、こいつは五秒でポケットに突っ込まれたんだがな。
「おう、俺なら此処に居るぜ!いやぁ、熱くなって時間忘れてたわ! 悪ぃ、悪ぃ!」
誘拐でも何でもなかったと安堵した様子の世話係は、俺がポケットから取り出したでけぇ虫を見て絶叫した。