その八
「それよか、ねぇねぇ見てよコレ!」
「うわっ、なんですか、それ」
ぐいと突き出された縦長の紙を避けながら聞く。
「ラブレターかな? ね、ラブレターかなコレ。モテモテだねワタシ」
見返せばそれは封筒だった。中央にはデカデカと、『果たし状』と書かれている。
達筆の殴り書きだった。
「違うと思いますよ」
しかも、筆の手書きである。よほど古風で上品な人がお怒りなんだろうか。
「……うぅん、なにごとですか?」
隣で寝ていた古都さんが、眉をひそめて身を起こす。
「あぁ、すいません。起こしちゃいましたか」
「いえ、そろそろ眠り疲れましたし、いいんですけど。それで、――――ほぉ!」
掲げられた『果たし状』の文字に、なぜか手を合わせてうっとりとする古都さん。
「ラブレター、ですね?」
今時のラブレターは、照れ隠しに『果たし状』と殴り書きするのが流行りなんだろうか。
……なわけあるか。
「いえ、多分、普通に『果たし状』なんだと思いますよ」
「素敵! 青春、ですね」
「〝事件〟の間違いじゃないですかね」
「え、マジ? ホントに果たし状なのコレ」
「まぁ!」
本気で驚いているようだ。大丈夫かなこの人たち。とくに、未だに恍惚な目で見つめている古都さん。『果たし状』の意味、わかってるんだろうか。
「ということは、まだ中身読んでないんですか?」
「ううん。さっき読んだよ」
「あぁ、じゃあ、その内容がラブレターっぽかったんですね?」
「なんか昼放課にプールへ来いって。で、……果たし合い? が、なんとかって」
「……完全に『果たし状』じゃないですか」
プールはこの時間帯なら誰も使っていないはずだ。外から丸見えの体育館裏よりも、360度目隠しボードで覆われたプールを選んだのは賢い選択だろう。
「どんな人だろう? いい人だとイイネ」
「それはないと思いますよ」
十中八九不良だろう。賢そうなので、仲間を引き連れているかもしれない。
「でしたら、……ふぁ。私が占って差し上げます」
「え?」
言うが早いか、古都さんは止まらないあくびをおさえつつ、机に小さな赤いクッションを敷き、金色のティアラをおでこに装着すると、おもむろに水晶玉を取り出した。
「どっから出したんですかそれ」
水晶玉は、古都さんの手のひらくらいあった。
「へ? うふふ、内緒です」
唇に人差し指を当て、不敵に笑う古都さん。大人っぽい色気にハッとさせられる。
「ウラナイって? どうやるの?」
トモカさんが机に身を乗り出して尋ねる。興味津々らしい。
「――――〝冥王の審判〟をします」
突然飛び出した禍々(まがまが)しいワード。〝冥王の審判〟? ひょっとして〝星の力〟だろうか。
「おぉ! ソレって、アナタの〝星の力〟?」
「へ? いっ、いえ、ほ、〝星の力〟じゃありません。私の、超能力です!」
「……お、おう」
微妙な表情になるトモカさん。さすがに察したようだ。