その七
「――――えぇ、で、あるからして。〝星の力〟は、母なる星に愛され、認められたものだけが授かる特別な力だと言われている」
翌日の朝。よりにもよって、一時間目は歴史の授業だった。
「力を手にすると、我々の髪や瞳は母なる星、つまり母星の持つ色に変化する。月は白、水星なら青、金星なら金、というようにな。この時我々は、初めて成人、大人として認められる」
歴史の先生は、長身なのに少し猫背な、白髪の男の人だった。ゲンタと同じ〝白い月星人〟のこの先生の話は、校長の次に眠いことで有名だったりする。
「しかし、この力なしでは、母星の外に出ることができない。そこで惑星移住者の多くは例外的に幼初期から〝星の力〟を授かるわけだが、〝星の力〟は他のいかなる力をも圧倒する強大なものであるからして、大きな制約がある。過去に繰り広げられてきた宇宙戦争で〝星の力〟が主だった攻撃手段として使われなかったのもこのためなわけだが、さて――――」
歴史の先生が口をつぐみ、視線を走らせると、おしゃべりしていたクラスメイトが示し合わせたように黙り込み、教室は水を打ったように静まり返る。先生が、誰かを当てるときの合図だからだ。
「――――じゃあ、古都。これ、答えてみろ」
案の定、最前列で爆睡してた古都さんが当たった。
「ふぁい?」
完全に寝ぼけている古都さんの返事に、ドッと笑いが巻き起こった。
古都さんは色白な肌を真っ赤にしながら、ゆっくりと立ち上がる。肩の下まである紫色の長髪が、光沢を帯びて翻った。
「へぇと、……何でしたっけ」
首を傾げる古都さんに、クラスは再び爆笑の渦に呑まれる。僕も思わず笑ってしまった。
「また寝とったなぁ、古都」
「はい」
即答する古都さん。紫の瞳を眠たげにこすっている。まだ寝ぼけているらしい。
「もういい、座れ。じゃあ、ゲンタ。……は、起きてるのか」
手元の名簿から、同じく居眠り常習犯のゲンタを指名した先生だったが、予想は外れたようだ。ゲンタは構わず立ち上がり、平然と答える。
「〝星の力〟は、誰かを守るための力であって、何かを傷つけるための力ではないからです」
「そうだな、よし。……座れ」
歴史の先生は、しばし呆気に取られて固まっていたものの、やがて思い出したようにそう告げた。教室にも、同じような空気が流れていた。
「倫理の授業でも習ったと思うが、〝星の力〟を他人を傷つけるために使った場合、母なる星から見放され、〝力〟を剥奪されてしまう。そして失ったが最後、一生元には戻らない。それだけのことをした、ということだ。くれぐれも、気をつけるように」
そこまで言い切ったタイミングで、終了を告げるチャイムが鳴った。
「次回からは、太陽系戦争と、〝星の力〟を剥奪された人物たちについて解説する。この範囲はテストにも出すので、しっかりと聞くように。――――では、解散っ!」
先生が足早に教室を出て行くと、途端に騒がしくなる。教科書を整理しながら横目で見ると、古都さんはまた爆睡していた。入口のすぐ横なので、大層目立ったことだろう。
と、作業に戻ろうとした矢先に教室の扉が開き、トモカさんがひょっこり顔を出した。今日も藍色の髪をお団子でまとめている。
「おぉ、カズマカズマ、ちょいちょいっ」
きょろきょろ見回してから僕に気づくと、腕を水平に伸ばしたまま手のひらだけで手招きをする。その独特な手の振り方と言いテンションと言い、人目を引いていた。
「……な、なんですかトモカさん」
「だから〝さん〟も敬語もいらないっテバ!」
僕が急いで駆け寄ると、そう言って少しむくれた。