その六
――――結局、誤解を解くのに三十分はかかった。犯人が僕じゃないと知った後も、ジュリさんの怒りはおさまらなかった。
「私は、この花畑を荒らしたやつを、絶対に許さないっ! コイツラに何の罪がある? ただ、咲いてるだけんじゃんか。生きようとしてるだけじゃんか! 何が悪いって言うんだよ。文句があるなら、――――アタシに言えよ!!」
ジュリさんは、泣いていた。
みんなで育てた花だからじゃない、一生懸命植えたからでもない。そんな的外れな想いじゃない。茶髪は、どう見ても地毛だ。瞳も同じ色をしている。そしてなにより、鼻をつく、この燃えたガソリンのような独特の匂い。
間違いない、ジュリさんは、〝茶色の木星人〟だ。〝褐色の木星人〟とも称される彼女たちは、澄んだ水を嫌い、植物を愛する。植物に宿る命を、人と同等に扱うのだ。それを笑う権利は、誰にもない。何より愛する大切なものが、誰にだってあるのだ。
「……さっきは悪かったな」
「い、いえ……」
「やったのは多分、地球人なんだ」
「それで僕を疑ってたんですね?」
「あぁ。けど、マミは隕石かなんかだって言うし、誰かさんは〝黒い異星人〟だって言うし」
「えへへ」
横目で睨まれたトモカさんは、恥ずかしそうに笑う。
「〝黒い異星人〟? それって、ちょうどこの辺りに現れたっていう――――」
「――――知ってるのか!?」
「うわっ! は、はい。人づて、ですけど……」
飛びついてくるジュリさんから控え目に一歩身を引く。そうでもしないとまともに目を合わせられないような距離だった。
「なんでも、母星から力を剥奪されて、宇宙空間をさまよってたんだとかなんとかって。まぁ、ゲンタの言うことなんで、どこまで信じていいのやら」
「ゲンタ? ひょっとしてソイツ、月星人か?」
「え、ゲンタを知ってるんですか?」
「あぁ。確かそんなやつが、同学年にいたな」
「あれ、学生なんですか?」
「カズマ、いくつだと思ってたの?」
トモカさんが顔を覗き込んでくる。高卒の二十歳に見えたとは、口が裂けても言えなかった。
「それよか、どうせお前も学校あるんだろ? 早いとこ帰れよ」
ジュリさんは腰を浮かせると、別れを告げて、一人で帰って行った。
人口流星群は、知らぬ間に終わっていた。