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パラレヌ・ワールド  作者: 全州明
一章 「世界征服はホドホドに」
6/58

その五

「あ、見えてきたよ。ホラ、お花畑」

 さされた指を目線でたどると、じわじわと数の減ってきた木々の向こうに、ちらほらと花が植えられているのが見える。それは頂上の少し手前から広がっており、登って行くうちにその数を増していった。

「アレ?」

 進んで行くうちに、トモカさんが首を傾げた。尋ねる前に、僕もそのわけに気づく。

 見えてきた頂上。そこに敷き詰められた一面の花々に、時折掘り返されたような跡がある。

「枯れた花を抜いたのかな?」

 僕は、すぐにその認識の甘さに気づいた。初めの方は丁寧に埋められていた跡が、しだいに大きく、乱暴なものになっていく。根っこがむき出しだったり、ほとんど土に埋まってしまっている花も少なくなかった。

「ひどい!」

「一体、誰が……?」

 頂上に着いた時、花畑は、すっかりなくなってしまっていた。ところどころ、綺麗に直された土の上に、真新しい花が咲いているだけだ。気づいた花屋さんが一生懸命直したんだろう。掘り返した跡を埋めたのも、多分花屋さんだ。そう思うと、胸がしめつけられる。

 僕らは、木も花も何もない場所で足を止め、顔を見合わせた。

「――――ワタシじゃないよ!」

「いやわかってますよ」

 ぐるりと見渡すと、ふと、まったく荒らされていない場所があることに気づいた。

「あれ、どうしてあそこだけ?」

 それは、中央付近の一点だった。そこだけ、掘り返された跡も新しく埋められた跡もなく、咲いているいくつかの花も、他と比べて古いもののようだ。遠目にもわかる、金魚鉢(きんぎょはち)をさかさまに垂らしたような、独特のシルエット。

「これ、スズラン、ですよね?」

 詳しくない僕にもわかった。ここに植えられた花の中では、もっとも親しみがある。

「うん、チキュウの花だね」

 改めて見返してみれば、無事に残っているのは地球の花だけだった。木犀(もくせい)()で扱っている花は、木星の花が中心だったはずだ、偶然ではないだろう。

「もしかして、これをやったのは、――――地球人?」

「まさか」

 トモカさんはあっけらかんと笑った。まぁ、そりゃそうか。今の地球にそんな人はいない。いたとしても、孤立するだけだ。

「おい! そこで何してんだ」

 (きびす)を返した僕らの先に、茶髪の人影が(たたず)んでいた。バケツをかついで、何やらものすごい剣幕で迫ってくる。

「お前らか、うちの花畑を荒らしたの!」

「い、いえ、違いますよっ」

 有無を言わさず胸倉を掴まれ、髪が触れるほどの距離で(にら)み上げられる。かけたエプロンに『木犀(もくせい)()』とプリントされていた。茶髪の人影の正体は、『木犀(もくせい)()』の店員さんらしい。イメージとは違い、不良のように目つきの悪い女の人だった。

 伸ばしっぱなしのボサボサな髪に、花をかたどった白いピアスが耳元で光っている。エプロンが胸のあたりで膨らんでいるのが、唯一女性らしかった。

「ちょ、ちょい、ジュリちゃん! カズマはそんなんじゃないよ」

 慌てふためくトモカさん。不良花屋の矛先がそちらに向く。

「あぁん? ……あぁ、トモカ。いたのか」

「いたよ」

 どうも知り合いらしい。途端に鋭い眼光が引っ込み、胸倉をつかむ手も緩んだ。

 ……放してはくれないようだ。

「先にこいつシバくから待ってろ」

「だから違いますって!」

「お前は黙ってろ!」

「ジュリちゃん、ホントに違うんだってばぁ!」

「だから黙ってろ! ……って、トモカか。なんだよ、お前コイツをかばうのか? いくらお前でも絶交すんぞ」

 ジュリさんは、想像以上に腹を立てているようだ。それこそ家族の(かたき)のように。

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