その十
「……皆さん、お話なら後でいくらでもできますわ。今は急ぎましょう!」
先行して走り出す魚々乃女さん。気づいた二人は立ち止まったままその場で身構える。
その理由はすぐに分かった。
「来ますっ!!」
かけ声とともに再度半透明の球を展開させる古都さん。それはバリアのように半円状に広がり、僕ら三人の前で盾のごとく立ちふさがる。実際、そういう役割なんだろう。
金属のコップに入れたビー玉を掻き回すかのような、くぐもった金属音が空気を震わせる。豪雨でかすんだ山道の向こうから、ぼんやりと光を放つツリガネ型のUFOが現れた。
さきほどよりも速度が遅いものの、どっしりとした青銅色の装甲は見るからに丈夫そうだ。上部の小窓から飛び出した砲塔が火を吹く前に、魚々乃女さんが動いた。
走りながら魚人化してウロコに覆われた右腕をぐんと下げ、脇に転がる大ぶりの石を水かきで掬い上げると、直後にバッと飛躍してUFOの砲塔に拾い上げた石を正面からぶつける。
電撃をまとった爆炎が広がり、見る影もなく砕け散るUFO。飛び散る破片を紫の盾が受け止めた。
「すごい……!」
声を上げたのは僕だけだった。
「また来るよっ」
トモカさんが言い終えるよりも先に、スズメバチに似た不穏な羽音が走る。
暗い黄金色に身を包んだくの字のブーメラン型UFOが、一瞬のうちに魚々乃女さんの頭上を抜け僕らへと迫る。機体下部が発光したかと思うと、黄色のエネルギー弾が撃ち込まれた。
「下がってくださいっ!」
古都さんの、悲鳴に近い金切り声。押し寄せる轟音と衝撃波に鼓膜がビリビリと震える。
迸る閃光が、咄嗟に閉じたまぶたの隙間から押し寄せてきた。
うろたえるしかない僕の横で、トモカさんは吐き出したキャンディストローを口元で構える。息が吹き込まれると同時に、生まれた無数のシャボン玉が弾丸のごとく放たれる。
それらはブーメラン型UFOの側面に当たっていくつもの風穴を開けた。
制御を失ったUFOは大きく左にそれて墜落すると、爆発をともなって粉々に砕け散った。
嵐の吹き荒れる薄闇の中で、トモカさんの横顔が燃え盛るUFOに照らし出される。誇らしげでもなんでもなく、そこには、いつも通りの眠たげな顔があった。




