その四
「……キレイだね」
「はい」
光り輝く星の流れにしばし見入っていた僕だったが、自然と訪れた沈黙が、何となく気まずくなった。
「あの、トモカさん――――」
「――――トモカでいいよ、カズマ。敬語もさん付けも、何もいらない」
「じゃ、じゃあ、……トモカ」
「うん」
トモカさんは、またしてもうなずくことなく声だけで返事をした。不思議な感覚だった。
「頂上まで行ってみない?」
「いいよ。キレイだもんね、あのお花畑」
「お花畑?」
回れ右して登っていくトモカさんを追いかけ、その背中に問いかける。
「アレ、知らない? ナンカ、花屋で育ち過ぎちゃったやつを、捨てずに植えてるんだって」
「花屋って、あの『木犀花』ってお店ですか?」
「そうそう、おいしそうだよね」
何言ってんだこの人。
「アァ、おなかすいた。ナンカ持ってない?」
「さっきクッキー食べたじゃないですか」
「えぇー、足りないよぉ。ねぇ、花でも草でもいいからさ」
よっぽど空腹なのか、僕の服のすそを引っ張って駄々をこねだす。
「何にもないですよ」
「その箱は?」
トモカさんが自転車のカゴを指さす。
「……望遠鏡ですけど」
「ボウエンキョウ!?」
藍色の瞳が爛々(らんらん)と輝いた。
「いや食べるなよ。何勝手に開けようとしてんすか」
アニメやマンガで珍味好きはよくいるけど、もはやその次元じゃなかった。シャボン玉のストローを口に含んでいただけのことはある。
「え、ダメ?」
「そりゃダメだろ」
なんだかもう、この人相手に敬語を使うのも馬鹿らしくなってきた。