その六
最後を見てから最初に戻るというのは憚られたので、その場の空気も味方して、なんとなく、いっそ矢印に逆らって回ろうという流れになった。……言い出したのは、主にトモカさんである。
とはいえ、フタを開けてみれば特に時間軸に沿って展示されているというわけではなくて、特に問題はなかった。
当時の資料からわかったのは、地球人の排他的な思想だった。
地球は宇宙の中心で、人間は、地球人だけ。
それ以外はすべて〝宇宙人〟。自分以下の存在。
自分たちだってそうなのに、動物を、人間と切り離して考えたように。
自分たちだってそうなのに、地球人は、異星人を〝エイリアン〟と呼んで忌み嫌い貶した。
そうして、和解のために訪れた、冥王星の王妃アヌイを殺した。
地球人は、自分たち以外の存在を、否定したのだ。
すべてを否定した地球人。いつしか、そう呼ばれるようになった。
地球人の、その罪は重い。
「……ン? あれ、地球さんじゃない?」
一通り回り終えて、本来一番最初に見るはずだった、太陽系戦争開幕から現在に至るまでの年表を見上げていた僕らだったが、いい加減飽きてきたらしいトモカさんがそんな声を上げた。
「え? まさか……」
言いかけて、つまる。ゲート側からではなく、僕らの回ってきた右側から、地球さんが、肩で息をして駆けてきたのだ。案内所から走って来たらしく、おでこや首筋に、玉のような汗がびっしりと浮かんでいた。
「皆さんっ!!」
「ど、どうしたんですの?」
息切れのあまりせき込む地球さんの背中をさすりながら、魚々乃女さんが尋ねる。
しばらくするとようやく落ち着いたようで、口元を袖で拭いながら、ぶつ切りに話し始めた。
「……す、すみません。取り乱してしまって。他に、誰もいらっしゃらなかったので」
「何かあったんですか?」
「――――黒い髪の、大柄な男性を、見ませんでしたか?」
「え? ソノ人がなんかしたの?」
「そうゆうわけでは、ないんですが。……とにかく! 髪は、肩の下まであったと思います。それで、多分、全身ずぶ濡れ、だと、思います。見かけませんでしたか!?」
地球さんの剣幕に押され、トモカさんはすっかり黙り込んでしまった。どのみち、とても冗談を言う空気ではない。
「いえ、僕ら以外、誰も」
「そう、ですか……」
そう告げると、地球さんは肩の力が抜けたのか、僕の両肩にもたれかかるようにしてしゃがみこんでしまった。
「大丈夫ですか?」
慌ててしゃがみこみ、近くにあった滑り止めマットの上に寝かせると、地球さんは、憔悴した様子で、必死に口を開いた。
「――――あぁ、やっと会えたと、思ったのに」
「あんまり、話さない方が……」
駆け寄る僕ら三人に向けて、地球さんはしかし首を振る。
「……私は、大丈夫です。それよりも、――――聞いて下さい。あれは、あの方は……」
一呼吸置いてから、地球さんは、最後の力を振り絞るかのように言う。
「――――最後の、地球人です」




