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パラレヌ・ワールド  作者: 全州明
一章 「世界征服はホドホドに」
4/58

その三

「ダイジョウブ?」

「え? ……あれ」

 突然、視界が半透明の虹色で満たされたかと思うと、パンと小さく弾ける音がして、僕は道の脇で茂みを背にへたり込んでいた。差し伸べられる、透き通るようなきめ細かい肌。顔を上げると、濃い青色の髪の女の子が、同じ色をした大きな瞳で僕を覗き込んでくる。……息がかかるような距離に、胸が高鳴った。

 女の子の方は、まゆ毛の位置で軽く切りそろえられた髪が夜風になびている以外、身じろぎもしない。半開きの丸い瞳は、なんだか眠そうだ。

「あっ、あぁ。……大丈夫、ありがとう」

 手を取るか迷って、結局自力で立ち上がると、女の子の髪が後ろで団子にまとめられているのがわかった。付け根には流れ星の髪留めが刺さっている。

「それより、さっきのって」

「ウン?」

 僕に合わせて立ち上がり、少し考えた後、女の子は『あぁ、あれか』という顔になる。

「フライドポテトっ!」

「え?」

「……が食べたい」

「知らないよ」

 言ってるそばからおなかが鳴った。どうも本当に食べたいらしい。

「クッキーならあるけど、いる?」

「うん」

 女の子は、目を合わせたまままったく首を動かさずに答えた。


           *


 開けた斜面に並んで座り、僕らはクッキーを片手に夜空を見上げていた。話しているうちに、人口流星群のことはもうどうでも良くなっていた。

「――――それで、さっきのシャボン玉だけど、ひょっとしてあれって……」

「あぁ、ホレ?」

 言いながら、女の子は口の中からキャンディの棒を突き出した。さっきまで棒ごと口に含んでいたようだ。女の子は端を指でつまんでから吐き出し、手に持って構えた。良く見ればそれはシャボン玉をつくるストローで、飲み込んでいた方の先端に、丸い()っかが付いていた。

「ワタシはスイセイ人なのです」

「え、どっちの?」

 聞くと、女の子はクッキーを一つ取ってから立ち上がって、くるりと回ってお団子の髪留めを指差す。(ひるがえ)ったチェックのスカートから、視線を引きはがした。

「彗星人、ってことですか?」

「ソ、〝(あい)(いろ)彗星(すいせい)(じん)米津(よねづ)トモカ。十六歳独身。アナタは?」

 脈絡のなさに戸惑いつつも、座ったまま答える。

「僕は、えっと、〝黒い〟地球人の伊瀬(いせ)カズマ、同い年です」

 ゲンタが〝白い月星人〟なら、この人は〝(あい)(いろ)彗星(すいせい)(じん)〟というわけだ。そして地球生まれ地球育ちの僕は、〝星の力〟を持っていないから〝黒い〟地球人。ちなみに、ゲンタもトモカさんも、〝星の力〟を得る前は〝黒い〟月星人、〝黒い〟彗星人だったことになる。〝黒〟はそういう位置づけなのだ。

「フーン。ジャ宇宙へは行ったことないの?」

「うん、僕はね。両親はいろんな星を飛び回ってたみたいだけど」

「で、このキャンディストローだけど」

「あぁ、それ、そんな名前なんだ……」

「ウン。コレね、ワタシの〝星の力〟なの」

 やっぱりそうか。一見何の変哲もない黄緑のストローも、〝星の力〟なら話は別だ。自転車を止めるくらい造作もない。

「ちなみにだけど、〝シャボン(だま)〟っていうのさ」

 自慢げに胸を張るトモカさんは、誇らしげだった。

「そうですか」

 〝星の力〟を持たない僕には、うらやましい限りだ。

「オイ、冷たいな」

「そうですか?」

「冷たいよ」

「そうですか」

「ちょい、手抜きかね?」

 (ほほ)をふくらませてむくれていたトモカさんが、不意に空を見つめて満面の笑みを浮かべた。つられて夜空を見上げると、無数の人口流星群が、天の川を模して流れ始めた。

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