その二
――――ふもとに着いた後も、ゲンタとの会話がまだ頭の中に残っていた。
『そいつ、髪も瞳も真っ黒なんだよ』
『は?』
ふと顔を上げると、カーブミラーに自分の顔が映り込んでいた。髪も瞳も真っ黒な僕が。ゲンタの場合はそれが白い。そういう星の下に生まれたからだ。そして、僕の場合は――――
『おかしいだろそんなの。だって黒は――――』
髪や瞳の〝黒〟は、〝星の力〟を持っていない、未成年の証だ。
『そ、だから面白いんだよ。噂じゃそいつ、母なる星から見放されたんだそうだ。で、帰ることもできず、宇宙空間をさまよってた』
『でも、〝星の力〟なしじゃ、宇宙空間には出られないんだろ? それは、お前の方が詳しいんじゃないか?』
『……まぁな。だからこそ俺は言い切れる。そいつはまともじゃねぇ。黒い髪のまま外に出るなんて、ましてや、母星から見放されるなんてな……』
思うところがあったのか、ゲンタはそのまま口ごもってしまった。
「……うわっ、間に合うかな?」
スマホを開けば開始まで残り十五分もない。僕は自転車に跨り、坂道を駆け上がった。
三つ子山は、この街の数少ない名所だ。その名の通り、高さの違う三つの山が寄り添うように連なっている。ゲンタの言っていた頂上は、一番高い山のことだろう。どうあれ、今さら引き返す気にはなれなかった。
立ちこぎで森の中の道に突っ込んでいく。
カゴの中で望遠鏡の入った箱が揺れた。この日のために大金はたいて買った新品だ。どうせなら、一番高いところで見たい。
現れた三つの別れ道を僕は迷わず直進する。波打った木の根に乗り上げ車体が少し浮いた。このまま行けば、ゲンタの言う頂上に着く。人口流星群は本物と違って低所からでもよく見えるので、わざわざ見に行く人は少ない。もともとこの街では流行っていないし、今回も多分僕一人だろう。そう思うと怖くなってきた。ごくりと固いつばを呑んだ、その時だった。
――――目の前を青い人影が横切ったのは。
「うわっ!!」
慌ててブレーキを握りハンドルを切る。しかし向こうも同じ考えだったのか、進行方向で尻もちをついていた。棒付きキャンディをくわえた知らない女の子だった。
間に合わないと思ったその時、女の子はキャンディを吐き出し、手に持って構えた。女の子がそれに息を吹き込む。次の瞬間、突如現れた巨大なシャボン玉に、僕は飲み込まれた。